第11話 寄り添う時間

冬の足音が近づく中、私たちはまたカフェで集まった。冷たい空気の中で飲む温かい飲み物が心までじんわりと温めてくれるような、そんな季節になっていた。


その日、咲子さんはいつもより少し疲れた様子だった。彼女は静かに席に着き、両手でカップを包むようにしてじっとしている。私と美香さんは彼女の様子を察し、無理に話を振らないようにしていた。咲子さんが自分から話し出すまで、ただそっと寄り添おうと思った。


しばらくすると、咲子さんがぽつりと口を開いた。「最近、職場で少し疲れることがあって……周りの人が話しかけてくれるのは嬉しいけど、答えなきゃって思うと緊張して、うまく話せなくなるの。」


その言葉には、彼女の苦悩がにじみ出ていた。場面緘黙症を抱える咲子さんにとって、周囲の期待に応えることがどれだけ重荷になるか、私たちにはよくわかっていた。


「咲子さん、それは無理しなくていいんだよ。自分のペースでいいんだから、できる時だけやればいいの」と、美香さんが優しく言った。その言葉は、まるで咲子さんの肩の力を抜くような温かさを持っていた。


私も静かに続けた。「僕も、時々自分の頭の中がぐちゃぐちゃになって、誰かと話すのが怖くなる時がある。でも、それは悪いことじゃないと思うんだ。自分にとっての安全な場所や方法を見つけるのが大事だと思う。」


咲子さんは小さくうなずきながら、「ありがとう」とつぶやいた。その声はかすかだったが、確かに私たちに届いていた。


美香さんが少し明るい声で、「それに、私たちは咲子さんが無理して話すよりも、こうして一緒にいるだけで十分嬉しいんだよ」と言った。咲子さんはその言葉に、少しだけ微笑みを浮かべた。


その後、三人で静かに紅茶を飲みながら、たわいのない話を続けた。美香さんの明るいジョークや、私が最近気づいた冬の景色の美しさなど、特別なことは何もないけれど、それがかえって心地よい時間だった。


カフェを出ると、冷たい風が吹き抜けたが、咲子さんはどこかスッキリした表情をしていた。彼女が小さな声で、「今日はありがとう。こうして話すだけで気持ちが楽になった」と言った時、私たちはお互いの存在がどれだけ大切かを改めて感じた。


それぞれの弱さや悩みを抱えながらも、こうして支え合える時間がある。それが、私たちにとって何よりの救いであり、これからも続けていきたいと思える大切なひとときだった。

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