第13話 ぬいぐるみの名前
あの日の公園で、咲子さんが手に入れた大きなぬいぐるみ。それはふわふわの白いクマで、彼女が大事そうに抱えているのを見て、私も美香さんも微笑ましく思っていた。
数日後、いつものカフェで集まった私たちは、自然とそのぬいぐるみの話題になった。美香さんがニヤリとしながら「そういえば、あのクマに名前つけた?」と咲子さんに聞いた。
咲子さんは少し恥ずかしそうに「まだ……でも、毎日部屋に置いてると安心するの」と答えた。その表情は、どこか穏やかで優しかった。
「じゃあ、今ここで一緒に名前を決めちゃおうよ!」と美香さんが提案した。その明るい声に、私も「いいね、それ。みんなで考えよう」と乗り気になった。
私たちはお互いに名前のアイデアを出し合った。
「白いから『シロ』とかどう?」と私が言うと、美香さんがすかさず「それ、単純すぎない?」と笑い、さらにこう続けた。「ふわふわしてるから『モフモフ』とか!」
咲子さんは少し考え込みながら、「うーん……でも、もっと優しい感じの名前がいいかも」とつぶやいた。その言葉に私たちも真剣に考え始める。
「じゃあ、『ユキ』とかは?雪みたいに真っ白で、柔らかいイメージがあるから」と美香さんが提案した。その名前を聞いた瞬間、咲子さんの顔がふっと明るくなった。
「……ユキ、いいかも。なんだか、暖かい気持ちになる。」彼女のその一言で、ぬいぐるみの名前は「ユキ」に決まった。
私たちはささやかながらも、この瞬間がとても大切なものに感じられた。名前を決めただけなのに、それが私たち三人の中で特別な共有の出来事になったように思えた。
咲子さんは「ありがとう」と笑顔で言い、「ユキがいると、夜も安心して眠れるの」と教えてくれた。その言葉に、私と美香さんはまた少し咲子さんに近づけたような気がした。
「ユキ、これからも咲子さんを守ってくれるね」と美香さんが微笑みながら言い、私も「いつかユキと一緒にまたどこかに出かけるのもいいかも」と続けた。咲子さんは小さくうなずきながら、少し照れくさそうに「そうだね……」と答えた。
私たちは、それぞれの小さな悩みや弱さを抱えながらも、こうして温かい時間を共有し、少しずつ支え合っている。その日は、カフェの外に出ると一面の冷たい冬空が広がっていたが、私たちの心の中には、ふわふわと暖かい気持ちが灯っていた。
「ユキ」という名前をきっかけに、また一歩前に進んだ私たち。この小さな出来事が、これからも私たちの絆を深めていくように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます