第38話 初めての読者
絵本『小さな羽ばたき』が完成し、次に私たちは誰に最初に見てもらうかを話し合った。カフェで集まり、美香さんが「まずは支援施設の人たちに見てもらうのはどう?」と提案した。
「確かに、私たちが通っている施設だから、応援してくれてた人も多いし、きっと喜んでくれるよね」と私が賛成すると、咲子さんも「……そうだね。いつもお世話になってるし、感謝の気持ちも込めたい」と静かに言った。
こうして、施設での小さな発表会を計画することになった。
発表会当日、私たちは支援施設の一室に絵本を持ち込み、簡単な展示スペースを作った。テーブルには完成した絵本を置き、その横には制作過程をまとめた写真や、私たち三人のメッセージを書いたボードを飾った。
「緊張するね」と美香さんが笑いながら言った。「でも、みんな優しいからきっと楽しんでくれるよ。」
咲子さんは少し緊張した表情をしていたが、「……うん、頑張る」と小さくうなずいた。
発表会が始まると、施設の利用者やスタッフが次々と展示スペースを訪れ、絵本を手に取って読んでくれた。スタッフの一人が「こんなに素敵な絵本を作れるなんて、本当にすごいね!」と声をかけてくれた時、咲子さんが小さく「ありがとうございます」と答える姿が印象的だった。
ある利用者が、「この鳥、最初は怖がってるけど、最後には飛べるようになるんだね。なんだか、自分たちみたいだね」とつぶやいた。その言葉に、私たちは胸が温かくなるのを感じた。
その後、私たちは簡単なスピーチを行うことになった。美香さんが元気に「この絵本は、三人で力を合わせて作りました!それぞれの特技を活かして、一つの形にできたのが本当に嬉しいです」と話すと、みんなが拍手を送ってくれた。
次に私が「この絵本は、小さな一歩がどれだけ大切かを描いた物語です。読んでくれた皆さんが、少しでも元気を感じてもらえたら嬉しいです」と伝えた。
最後に咲子さんがゆっくりと立ち上がり、小さな声で話し始めた。「……私は、人前で話すのが苦手で、最初はこういう発表が怖かった。でも、二人と一緒に絵本を作る中で、自分でも少しずつ変われるって思えるようになりました。この絵本が、誰かの力になれたら嬉しいです。」
その言葉に、会場は温かい拍手で包まれた。
発表会が終わり、展示スペースを片付けながら、咲子さんが「……緊張したけど、話せてよかった」と静かに笑った。
「すごく良かったよ、咲子さん」と美香さんが言い、私も「みんな咲子さんの言葉に感動してたよ」と伝えた。
その日の帰り道、咲子さんがふと「私、これからもっと自分を出せるようになりたい。少しずつでいいから」とつぶやいた。
その言葉に、私は「その気持ちが一番大切だよ。一歩ずつでいいんだから、これからも一緒に頑張ろう」と答えた。
美香さんも「そうそう!私たちはまだまだこれからだよ!」と笑顔で言った。
春の柔らかな風が吹く中、私たちはまた新しい未来に向かって歩き始めていた。『小さな羽ばたき』は、私たち自身の羽ばたきの第一歩だった。それが誰かに届いたことで、新しい希望が生まれているのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます