第35話 新しいタイトル

絵本の内容がほぼまとまり、物語のラストシーンも決まった頃、私たちは次の課題に向き合うことになった。それは、絵本のタイトルをどうするかということだった。


いつものカフェに集まった私たちは、それぞれの案を持ち寄ることにした。美香さんが最初に口を開いた。「『はじめての空』ってどうかな?鳥が初めて飛ぶ話だから、すごくシンプルだけど伝わりやすいと思うんだ。」


「いいね」と私は答えた。「短いし、すぐにイメージが浮かぶタイトルだと思う。でも、もう少し感情を入れてみるのもいいかもしれない。」


すると、咲子さんが控えめに手を挙げ、「……私は『小さな羽ばたき』がいいかなって思った。最初の一歩って、大きなことじゃなくても、自分にとっては特別だから。」


その言葉に、美香さんも私も「いいね!」と声を揃えた。「それ、すごく温かい感じがする」と美香さんが笑顔で言い、私も「物語のテーマにも合ってるね」と続けた。


その場では、咲子さんの案が有力な候補となり、さらにいくつかのアイデアを出し合った。「空に向かって」「春の風とともに」「小さな翼」など、いろいろな案が飛び交った。


「どれも素敵だね」と私が言うと、美香さんが「でも、咲子さんの『小さな羽ばたき』が一番しっくりくる気がするな」と言った。


咲子さんは少し驚いたように、「……本当に?」と聞いた。その声には、どこか嬉しさが混じっていた。


「決まりだね」と私たちは笑顔でうなずき合った。絵本のタイトルは『小さな羽ばたき』に決まった。


その瞬間、咲子さんが少し照れくさそうに「自分の考えたものが、タイトルになるなんて思わなかった」とつぶやいた。


「それだけ素敵な案だったからだよ」と美香さんが優しく答えた。「咲子さんが物語のテーマを一番深く考えてくれたから、このタイトルがぴったりだと思う。」


帰り道、咲子さんがぽつりと「今まで、自分の意見がこんな風に受け入れられるなんて思わなかった。ちょっと自信がついた気がする」と言った。


その言葉に、私は静かにうなずいた。「咲子さんの思いが、私たちの絵本をもっと特別なものにしてくれたんだよ」と答えた。


春の風が穏やかに吹く中、私たちはまた一つの目標を達成することができた。絵本の完成はすぐそこだ。それぞれの思いを込めた『小さな羽ばたき』が、どんな形で完成するのか。期待を胸に、私たちは次のステップに進む準備をしていた。

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