第34話 意見を合わせる難しさ
春が本格的に訪れ、私たちの絵本づくりは佳境に入っていた。それぞれの役割をこなしながら、少しずつ形になっていく作品を見て、私たちは達成感を感じつつも、新たな課題に直面し始めていた。
ある日、カフェで集まり、ストーリーの展開について話し合っていた時だった。私は「鳥の主人公が最後に空を飛ぶシーンをもっと壮大に描きたい」と提案した。それに対して、美香さんは「でも、もっと日常的で親しみやすい方が良いんじゃないかな」と意見を述べた。
「壮大な方が印象に残ると思うんだけど」と私が食い下がると、美香さんは少し不満そうな顔をした。「でも、それだと話が現実離れしすぎて、咲子さんの優しいデザインと合わなくなると思うの。」
その場にいた咲子さんは、私たちのやり取りをじっと聞いていたが、少し困ったような表情を浮かべていた。
私たちはお互いに譲れない部分を感じていたが、それでも意見を合わせる方法を見つけようと努力していた。しかし、話が進むにつれて、どこかぎこちない空気が漂い始めた。
その時、咲子さんが静かに口を開いた。
「……どちらの意見も良いと思う。でも、私は、鳥が自分の力で小さな一歩を踏み出すシーンが好きかも。壮大なことじゃなくても、自分が前に進むのって、それだけで大きなことだから。」
その言葉に、私と美香さんはハッとした。咲子さんが、自分の思いを真剣に伝えてくれるのは初めてのことで、その言葉には彼女自身の経験や思いが込められているのが伝わった。
私は少し反省しながら言った。「確かにそうだね。壮大なシーンもいいけど、小さな一歩が大切だっていうのは、この物語のテーマそのものだよね。」
美香さんも「うん、咲子さんの言う通りだと思う。日常の中で自分の力で進む姿を描くのが、この絵本にぴったりかもしれない」と納得してくれた。
その後、私たちは再び話し合いを進め、ストーリーのラストを修正することにした。鳥が友達に支えられながら、自分の力で初めて小さく飛び立つシーン。それを描くことで、私たち三人が大切にしている思いをしっかりと伝えられると感じた。
帰り道、咲子さんが「今日、私が意見を言っても良かったのかな」と少し不安そうに聞いてきた。
私は笑顔で「もちろんだよ。咲子さんの意見がなかったら、きっとまとまらなかったと思う」と答えた。
美香さんも「本当にそうだよ。咲子さんが自分の思いを言ってくれたからこそ、いい方向に進めたんだよ」と力強く言った。
春の柔らかな風の中、私たちはまた一歩成長することができた。それは、意見をぶつけ合うことでお互いを理解し合い、支え合う絆を深めた証だった。
絵本の完成はもうすぐだ。それがどんな形になるのかを楽しみにしながら、私たちは新しい未来に向かって進んでいくのだった。
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