第33話 悩みと向き合う
絵本づくりが順調に進む中、咲子さんから「ちょっと相談したいことがある」とメッセージが届いた。どこか不安げな様子が伝わるその言葉に、私は胸がざわついたが、「何があっても力になるから」と返信を送った。
カフェで集まると、咲子さんはバッグから手作りの布作品を取り出した。それは、彼女が絵本の背景に使おうと準備していた新しいデザインだった。柔らかな花柄が描かれていて、とても彼女らしい優しさが感じられる作品だった。
「これ、どうかな……」と彼女は少し不安そうに言った。「自分では、ちゃんとできてるのか分からなくて……皆に迷惑をかけてないかなって思っちゃって。」
その言葉を聞いて、私は彼女の心の中にある不安がどれほど大きなものかを感じた。場面緘黙症を抱えながらも、自分の表現を誰かに伝えることの難しさを、彼女は日々感じているのだろう。
「咲子さん、すごく綺麗だよ」と私が言うと、美香さんも「本当だよ!この優しい雰囲気、絵本の物語にぴったりだと思う」と力強く言った。
咲子さんは少しだけほっとした表情を見せたが、それでも「でも、もっと上手な人なら、もっと良いものが作れるんじゃないかな……」と控えめに言った。
美香さんが少し考えてから、静かに口を開いた。
「咲子さん、私も刺繍を始めた時、すごく不安だったよ。『こんなの誰も喜ばないかもしれない』って何度も思った。でも、誰かに見てもらうことで、その人が少しでも喜んでくれるなら、それが大事なんだって気づいたの。」
彼女の言葉には、真剣な思いが込められていた。私も「咲子さんの作品は、僕たちにとってとても特別だよ。それは、咲子さんが心を込めて作っているからだと思う」と続けた。
咲子さんはしばらく考え込み、やがて小さく「……ありがとう」と言った。その声には、少しだけ自信が戻ってきたように感じられた。
その後、私たちは自然と次の話題へと進み、絵本のストーリーについて意見を交わした。
「この鳥のキャラクター、もっと活発な性格にしたらどうかな?」と美香さんが提案すると、咲子さんも「……そうだね。友達に引っ張ってもらいながら頑張る姿が描けるといいかも」と言った。
彼女が少しずつ自分の意見を出せるようになっている姿に、私は嬉しさを感じた。
帰り道、咲子さんがふと「私、自分の作品が誰かの役に立てたら嬉しいなって思う。まだ怖いけど……少しずつ頑張りたい」とつぶやいた。
その言葉に、私は「それが一番大事なことだよ。少しずつでいいんだから、一緒に進んでいこう」と答えた。
春の風がそっと吹き抜ける中、咲子さんがまた一歩前に進む姿を見た。それは、私たち三人の絆が生んだ小さな奇跡のようだった。
これからも支え合いながら、私たちは新しい未来に向かって進んでいく。その未来がどんな形になるのかを楽しみにしながら、私は静かに足を進めた。
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