第4話 小さな約束

その翌週、私たちは再びカフェに集まった。カフェで過ごす時間は、なんとなく私たちにとって特別なものになっていた。普段はそれぞれが自分の障害と向き合いながら、日々の生活を送っているが、この場所では、何も飾らずにいられる気がしていた。


注文を済ませ、コーヒーの香りが漂う中、美香さんが楽しそうに話し始めた。「次の週末、少し散歩でもしてみない?近くの公園がきれいで、紅葉も始まっているって聞いたからさ。」彼女の提案に、私はすぐにうなずいた。


でも、咲子さんは少し不安そうな表情を浮かべた。「人が多いところは、少し緊張するかもしれない……」彼女は自分の場面緘黙症のことを気にしていたのだ。


美香さんは咲子さんに寄り添うように、「じゃあ、もし無理そうだったら途中でやめて、またここでお茶するってことでどう?」と提案してくれた。その柔らかな言葉に、咲子さんも少し安心した様子で、やがて「……うん、行ってみようかな」と答えた。


私たちは、あまり計画を立てすぎず、柔軟に対応しながら過ごすことにした。障害があると、自分のペースで無理せずに過ごすことが大事だと知っているからだ。どこまで楽しめるかはわからないが、無理のない範囲で一緒に過ごせるだけで良いと思えた。


その後も会話は続き、咲子さんは少しずつ自分の言葉で話してくれるようになった。彼女の声は小さいけれど、心がこもっているのが伝わってきた。その穏やかな会話の中で、私たちはいつの間にか、無理をしないこと、できるだけお互いに支え合うことを小さな約束として心に刻んでいた。


その日、カフェを出る時、咲子さんがふと「ありがとう、こういう場所があるのって、なんだか安心する」と小さな声でつぶやいた。その言葉が私たちの心に響き、温かい気持ちで満たされた。


私たちは、特別なことをするわけではない。ただ、一緒にいるだけでいい。お互いに無理をせず、少しずつ距離を縮めていく時間が、私たちにとってかけがえのないものになっていくのを感じた。

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