第5話 紅葉の散歩道

週末がやってきた。約束通り、私たちは近くの公園で集まることにした。秋の空気が心地よく、紅葉した木々が公園を鮮やかに彩っていた。咲子さんは少し緊張した面持ちで、公園の入り口に立っていたが、美香さんが彼女のそばに寄り添い、軽く肩に手を置いて「一緒に楽しもう」と微笑みかけた。


私たちは三人並んでゆっくりと歩き始めた。最初は無言だったが、しばらくして、美香さんが木々の間に見える小さな池を指さして、「あっちで写真撮ってみない?」と提案した。咲子さんもその言葉に応じて、小さくうなずいた。


池のほとりに到着すると、私たちは静かにその景色を眺めた。風が吹くたびに赤や黄色の葉がはらはらと舞い、まるで絵本の中にいるような幻想的な光景が広がっていた。咲子さんも、少しだけ顔をほころばせて、紅葉に見入っている。


美香さんは「こんな風景を見れると、少し元気が出るよね」とつぶやき、咲子さんは「うん……きれいだね」と小さく答えた。普段は言葉数が少ない咲子さんが、自分から自然に言葉を発する瞬間に、私たちはそれぞれの心が少しずつ解けていくのを感じた。


歩きながら、私は自分の障害について少し話すことにした。「僕も、紅葉の景色を見ていると、不安な気持ちが少し和らぐんだ。普段は、自分の感情がどう動いているのかわからないことが多いけど、こういう場所だと、少しだけ落ち着くんだよね。」


その言葉に、美香さんが優しくうなずき、「自然って不思議だよね。私もチック症の症状が少し和らぐ気がする」と答えた。私たちは、ただ自然の中にいるだけで、お互いのことを理解し合える気がした。


咲子さんも、ふと勇気を出して話し始めた。「私、場面緘黙症で……人前で話すのが怖いけど、こうしてると……なんだか話しやすい。」彼女の声はかすかだったが、その言葉には強い思いが込められていた。私たちはその言葉に静かにうなずき、咲子さんの気持ちをしっかりと受け止めた。


散歩の最後に、美香さんが少し笑って「次は温かい飲み物が欲しいね」と言った。それに、咲子さんも小さな笑顔で応じた。「うん、紅茶とか……いいかも。」


その後、私たちはまたカフェに戻り、温かい飲み物を片手にゆっくりと過ごした。紅葉の散歩道を通り抜け、少しずつ距離が縮まっていく私たち。それぞれの障害や不安を抱えながらも、一緒に過ごす時間が私たちを少しずつ解放してくれるのを感じていた。

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