第6話 初めての本音
いつものカフェで温かい飲み物を手に、私たちはリラックスした時間を過ごしていた。紅葉を見た後の余韻がまだ残っていて、心がほっとしているような感覚だった。咲子さんも、少しずつ話すことに慣れてきたのか、穏やかな表情で私たちの会話に耳を傾けている。
美香さんがふと、「そういえば、みんなが一番困ったことってどんなこと?」と尋ねた。彼女はどこか明るい口調で話したが、その問いかけには、私たちがお互いのことをもっと知りたいという気持ちが込められているのが伝わってきた。
私は少し考えてから、口を開いた。「僕の場合、統合失調症だから、現実が分からなくなることがあるんだ。周りの人が言ってることが本当に自分に向けられているのか、それとも自分の頭の中の声なのか、わからなくなることがある。正直、怖い時もあるんだ。」
自分のことを正直に話すのは勇気が要ったが、二人は真剣に聞いてくれていた。その視線が私を安心させ、少し気持ちが楽になった。
すると、咲子さんが小さな声で「私も、話さなきゃいけない時に声が出なくなると、すごく辛い。周りの人は普通に話せるのに、私だけどうしても声が出なくて、周りの視線が怖くなる……」と話してくれた。普段はあまり話さない咲子さんが、自分の内面を語ってくれたことに、私と美香さんは驚きながらも静かにうなずいた。
美香さんは少し間を置いてから、明るく言った。「私もさ、チック症で急に動いたり音が出たりするの、コントロールできないんだよね。前はすごく気にしてたけど、今はもう『これが私だ』って思うことにしてる。でも、そう思えるまでにはずいぶん時間がかかったんだよ。」
美香さんの明るい口調が、場の空気を和ませた。私たちはそれぞれ、誰にも言えない苦しみを抱えながら生きているけれど、こうして話し合うことで、少しずつ自分たちの「普通」を認められるようになっている気がした。
ふと、咲子さんが言った。「こうして、同じ気持ちを分かってもらえるのって……安心するね。」
その言葉に、私も美香さんも静かにうなずいた。自分の障害や特性を理解してもらえる場所、誰も否定せず受け入れてくれる場所。それがこのカフェでの時間であり、私たち三人の間に築かれている信頼だった。
帰り際、私はふと感じた。これまでずっと一人で背負ってきたものが、少しだけ軽くなったような気がする。私たちはそれぞれに困難を抱えているが、共に話し、支え合うことで少しずつ前に進んでいる。そのことが、私にとって何よりも心強く感じられた。
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