第7話 信頼の形

カフェでの会話を通じて、私たち三人の間には確かな絆が生まれつつあった。お互いの障害や苦悩を共有し、理解し合うことで、自分たちが孤独ではないと感じられるようになってきた。


ある日、咲子さんが思いがけずメッセージを送ってきた。彼女が自分から連絡をくれるのは初めてのことで、私は少し驚きとともに嬉しさを感じた。メッセージには、「次に会った時に少し相談がある」と書かれていた。


約束の日、私と美香さんはいつものカフェで咲子さんを待っていた。やがて彼女が現れ、いつもより少し緊張した面持ちで席に着いた。


「どうしたの?」と美香さんが尋ねると、咲子さんはゆっくりと話し始めた。


「……実は、今度、職場でプレゼンテーションをしなきゃいけないんです。でも、皆の前で話すなんて、自分には無理だと思って……どうしたらいいか、わからなくて……」


咲子さんの表情には不安がにじんでいた。場面緘黙症の彼女にとって、人前で話すことはとても高いハードルであることを私たちは知っていた。だからこそ、その恐怖や不安がどれほど大きいものか、痛いほど理解できた。


私と美香さんは静かにうなずき、彼女の気持ちを受け止めた。しばらくの沈黙の後、美香さんが優しく言った。


「咲子さん、プレゼンは確かに緊張するよね。でも、どうしても辛くなったら、無理しないでやめてもいいんだよ。私たちは咲子さんがどんな決断をしても応援してるからね。」


その言葉に、咲子さんは少しほっとした表情を見せた。そして私も続けて、「練習で良ければ、僕たちの前で話してみるのもいいかもしれないよ。何度か練習してみたら、少し気持ちが楽になるかもしれないし」と提案した。


咲子さんは一瞬驚いたように見えたが、やがて小さくうなずいた。「……ありがとう。試してみたいかも。」


その後、私たちはカフェの静かな一角で、咲子さんのプレゼン練習を手伝うことになった。彼女が話すたびに緊張して言葉が詰まることもあったが、私と美香さんは決して急かさず、温かく見守りながら聞き続けた。


咲子さんが少しずつ言葉を重ねる中で、私たちも自然と応援の気持ちが強くなっていった。彼女の小さな一歩が、私たちにとっても大きな励ましになっていた。


帰り際、咲子さんが静かに言った。「今日は本当にありがとう。皆のおかげで少し自信がついた気がする。」


その言葉に、私たちはまた一つ、信頼という形で結びついたように感じた。それぞれの困難に対して支え合い、励まし合う私たちの関係が、少しずつ深まっていくのを実感した瞬間だった。

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