第3話 支え合いのはじまり

それから数日後、私たちは再び就労サポート施設で顔を合わせた。あのカフェでの会話がきっかけで、私たちは自然と「また一緒に過ごしたい」と思うようになっていた。咲子さんも、この日は少しだけいつもより明るい表情を浮かべていたように見える。


その日は、施設のプログラムの中で簡単な自己紹介を行う時間があった。しかし、咲子さんはいつものように顔をうつむけ、緊張している様子だった。場面緘黙症が原因で、見知らぬ人の前では話すのが特に難しいのだろう。周りの視線が集中する中、彼女はどうしようもない不安に押しつぶされそうになっているようだった。


そんな時、ふと美香さんがそっと手を伸ばして、咲子さんの手を軽く握った。その手のぬくもりが、咲子さんに安心感を与えたのか、彼女は小さく微笑んで、ほんの少しだけ顔を上げることができた。


「大丈夫だよ、咲子さん」と、美香さんが静かに声をかける。その言葉が、咲子さんの緊張を少し解きほぐしたのか、彼女はゆっくりと深呼吸をしてから、自己紹介の内容を小さな声で話し始めた。声はとてもかすかだったけれど、確かに彼女の気持ちがそこに込められていた。


その姿を見て、私も自然と力が入るのを感じた。咲子さんが勇気を出して話している姿に、私も自分が支えになりたいと思ったからだ。


その後の休憩時間、三人で一緒にいると、咲子さんがふっと笑顔を見せて、「さっきはありがとう」と小声で言ってくれた。その一言が、私たちにとってとても大きな意味を持っていた。私たちはそれぞれ異なる障害を抱えているけれど、こうして少しずつ支え合うことができるのだと実感した瞬間だった。


帰り道、美香さんが明るい声で「これからも、困った時は遠慮なく言ってね」と言い、咲子さんも静かにうなずいた。その一方で、私も何かあれば頼りにしてほしいと思っていた。


こうして、私たち三人は少しずつ、お互いの心の支えになり始めていた。

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