第24話 小さな成功の余韻
ハンドメイド作品のイベントから数日が経った。カフェでいつものように集まった私たちは、あの日のことを振り返りながら、ほっとした空気の中で過ごしていた。
「いやー、本当に楽しかったよね!」と美香さんがコーヒーを飲みながら笑顔で言った。「まさか、あんなにお客さんが来てくれるとは思わなかったけど、特に咲子さんのコースター、大人気だったじゃん!」
咲子さんは少し照れたように「……本当かな。でも、あんな風に自分の作ったものを手に取ってもらえるのは、すごく嬉しかった」と小さな声で答えた。その言葉には、確かな喜びが込められているのが分かった。
「もちろん本当だよ!」と美香さんが力強く言い、私も「咲子さん、本当に良い作品だったよ。僕もまたああいうイベントに出てみたいなと思った」と続けた。
その日のイベントで、咲子さんが自分の作ったコースターを初めて売った瞬間のことを、私たちは思い出していた。あの時の咲子さんは緊張しながらも、初めて自分の手で作ったものを評価してもらえた喜びに溢れていた。
「ありがとうって言えたのも、すごく大きな一歩だったよね」と私が言うと、咲子さんは「……でも、あの時は本当に緊張してて、声が震えちゃってた」と少し恥ずかしそうに笑った。
「それが良いんだよ」と美香さんが優しく言った。「大事なのは完璧じゃなくて、一歩踏み出せたことなんだからさ。」
その日のカフェでは、自然と次の話題が未来のことに移った。
「また何か作ってみたいね」と美香さんが提案すると、咲子さんも「……うん、もっと練習して、次はもっといろいろ作れるようになりたい」と意欲的な言葉を口にした。
私は「じゃあ、次はもう少し大きなものに挑戦する?」と提案してみた。「例えば、テーマを決めて、みんなでそれに沿った作品を作るとか。」
「いいね、それ!」と美香さんがすぐに賛成し、「例えば『冬の思い出』とかどう?」と楽しそうに言った。
咲子さんも「……それなら、雪とか暖かいものをイメージしたものを作れそう」と小さな声で答えた。その表情は、どこか自信に満ちているように見えた。
帰り道、私はふと思った。咲子さんの中で、何かが少しずつ変わっているのだろう。彼女は今まで、自分の気持ちや意欲を表現することに躊躇していた。それが、今回のイベントを通じて少しずつ変化し、彼女自身が新しい一歩を踏み出せるようになっているのだと感じた。
私たち三人の関係もまた、少しずつ深まっている。支え合いながら一緒に何かを作り上げることで、互いに新しい側面を見つけ、共有できるようになってきた。
冬の空はまだ冷たいけれど、私たちの心には確かな温かさが灯っている。それは、これまで一緒に築き上げてきたものが生み出した、小さな成功の余韻だった。
私たちはこれからも、この余韻を胸に抱きながら、新しい挑戦に向かって進んでいけるはずだ。そんな確信を抱きながら、私は静かに歩みを進めた。
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