第23話 新しい挑戦

咲子さんが気持ちを伝えてから数日後、私たちはまたいつものカフェに集まっていた。その日は、いつもより少し活気があり、店内には穏やかな音楽が流れていた。


「ちょっと聞いてよ!」と美香さんが突然声を上げた。彼女はカバンからチラシを取り出し、私たちに見せた。それは地元で開催される小さなイベントの案内で、「ハンドメイド作品の展示販売会」と書かれていた。


「これね、誰でも参加できるみたいなんだよ」と彼女は目を輝かせながら言った。「せっかくだし、私たちも何か作って出してみない?」


「え、私たちが?」と私は驚いて聞き返した。


「そう!ほら、咲子さんもあの手作りコースター、すごく良かったし、田中さんだって絵本を選んだセンスがあるし。みんなで何かやってみたら楽しいんじゃない?」


咲子さんは少し戸惑ったように、「でも……私、そんな大したもの作れないよ」と不安そうに言った。


美香さんは笑顔で、「そんなことないよ!大事なのは楽しむこと。別に完璧なものじゃなくてもいいし、三人でやるならきっといい思い出になると思う」と励ました。


私も、「確かに面白そうだね。挑戦するだけでも新しい経験になるかもしれない」と同意した。


咲子さんは少し考え込んでいたが、やがて小さくうなずいた。「……じゃあ、やってみる。皆と一緒なら、頑張れる気がする。」


それから、私たちは何を作るかを相談し始めた。美香さんは「私はまた刺繍で小物を作るよ」と張り切って言い、咲子さんは「私は、簡単なコースターとか、布で作れるものを考えてみる」と控えめに提案した。


「じゃあ、僕は何か絵を描いてみようかな」と私は言った。絵を描くのは久しぶりだったが、二人と一緒に何かを作るなら、挑戦してみたいと思えた。


数週間の準備期間、私たちはそれぞれの作業を少しずつ進めた。咲子さんは最初は「うまくいかない」と悩むこともあったが、美香さんや私が「いいじゃん!可愛いよ」と言うと、少しずつ自信を持てるようになっていった。


イベントの前日、私たちはカフェに集まり、完成した作品を見せ合った。美香さんの刺繍小物、咲子さんのコースター、そして私の小さなイラスト。どれもプロのような完成度ではなかったけれど、それぞれの気持ちがこもっていて、私たちはその瞬間がとても特別なものに感じられた。


イベント当日、私たちは少し緊張しながらも、ブースに作品を並べた。来場者がそれを手に取り、「可愛いね」と言ってくれるたび、咲子さんの表情が少しずつ明るくなっていくのが分かった。


そして、一人の女性が咲子さんのコースターを買ってくれた時、彼女は小さな声で「ありがとう」と言った。その瞬間、彼女の中で何かが変わったように見えた。


イベントが終わり、私たちは三人で疲れたけれど満足感に包まれていた。


「楽しかったね」と美香さんが言うと、咲子さんも「うん……また、こういうことやってみたい」と答えた。その言葉が、私たちにとって一番の成功の証だった。


新しい挑戦を通じて、私たちはまた一歩進むことができた。そして、これからもこうして支え合いながら、もっと多くの挑戦ができるだろうという確信を持てた。


冬の冷たい風が吹いていたけれど、私たちの心には確かな温かさが広がっていた。それは、一緒に作り上げた特別な時間が生み出した、かけがえのない絆だった。

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