第17話 クリスマスの準備

クリスマスが近づくにつれ、私たちは計画を少しずつ形にしていった。ケーキの種類、飲み物の準備、そしてプレゼント交換のこと。話すたびに、期待が膨らんでいくのを感じた。


咲子さんは、プレゼントを選ぶのが苦手だと言っていたけれど、それでも「何か相手が喜んでくれるものを選びたい」と一生懸命考えている様子だった。私たちは「本当に小さなものでいいんだよ」と何度も伝えたが、彼女は「うん、わかってる。でも、ちょっと頑張ってみたい」と答えてくれた。


約束の日の前日、私は自分のプレゼントを買うために町に出かけた。咲子さんや美香さんのことを考えながら選ぶのは、なんだか楽しい気持ちになった。最終的に、小さな絵本を選ぶことにした。優しい絵と言葉が載っているその本を見たとき、これがきっと二人に喜んでもらえるだろうと思った。


帰り道、クリスマスの飾りで輝く街並みを見ながら、私はふと心が温かくなるのを感じた。これまでの自分なら、こんな風に誰かのために何かを選ぶことが、これほど嬉しいとは思わなかっただろう。私たちの関係が、少しずつ自分を変えてくれているのだと気づいた。


そして迎えた当日。美香さんの家に到着すると、彼女はクリスマスの飾り付けを楽しそうに見せてくれた。小さなツリーに、手作りのオーナメント。彼女の明るい性格がそのまま反映されたような飾り付けが、部屋全体を温かくしていた。


咲子さんも到着し、手には小さな包みを持っていた。少し緊張した表情で「これ、持ってきた」と言う彼女に、私たちは笑顔で「楽しみだね!」と声をかけた。


ケーキを食べながら話していると、美香さんが「プレゼント交換しようよ!」と声を上げた。ルールは簡単。くじを引いて、誰が誰のプレゼントを受け取るかを決める。


結果、私は咲子さんのプレゼントを受け取ることになった。包みを開けると、中にはシンプルな手作りのコースターが入っていた。咲子さんが少し恥ずかしそうに「……不器用だけど、作ってみたの」と言った。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」と私は心から伝えた。咲子さんが、自分で何かを作ってくれたことが、何よりの贈り物だった。


美香さんは私の絵本を受け取り、「これ、素敵!読むのが楽しみだよ」と嬉しそうに言ってくれた。その笑顔を見て、私も安心した。


咲子さんが受け取ったのは、美香さんが選んだ可愛らしい手鏡だった。「これ、すごく綺麗……」と彼女はそっと手鏡を見つめていた。


その夜、私たちはクリスマスの特別な時間を存分に楽しんだ。ケーキを食べ、笑い合い、少し未来の話をしたりして過ごした。特別な場所や派手な飾り付けがあるわけではなかったけれど、そこに流れる時間は確かに心に残るものだった。


帰り際、咲子さんがぽつりと「こんなクリスマスを過ごせたの、初めてかも」と言った。彼女のその言葉が、私たちにとって一番の贈り物になった。


冷たい夜風の中、私たちはそれぞれの心に温かな思いを抱きながら、それぞれの帰り道を歩いていった。この日の思い出は、きっとこれからも私たちの心に灯り続けるだろうと感じた。

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