第19話 新年の約束

新しい年が明けた。お正月休みも終わり、久しぶりに私たちはカフェで顔を合わせた。街にはまだ新年の賑やかな空気が残り、行き交う人々の中には晴れ着姿の人もちらほら見られた。


咲子さんが静かに微笑みながら「明けましておめでとう」と小さな声で言うと、美香さんがすかさず「おめでとう!今年もよろしくね!」と元気よく返した。


私も「今年も一緒に楽しく過ごそうね」と言い、三人で新しい年の始まりを祝う気持ちを共有した。


コーヒーを飲みながら、美香さんが突然、「今年、何かやりたいこととかある?」と聞いてきた。彼女らしい明るい問いかけだったが、それは私たちにとって少しだけ考えさせられるものだった。


咲子さんはしばらく考え込み、やがてぽつりとつぶやいた。「……もっと、自分の気持ちを言えるようになりたい。まだ怖いことも多いけど、少しずつでも、伝えられるようになれたらいいな。」


その言葉に、私と美香さんは静かにうなずいた。咲子さんが抱えている課題は、私たちにも痛いほど分かる。だからこそ、彼女が新しい年に向けて目標を掲げたことが嬉しかった。


「少しずつでいいんだよ。焦らず、自分のペースで進めば絶対に大丈夫」と美香さんが優しく声をかけた。


次に私が話す番だった。少し考えてから、「僕も、もっと自分の障害について周りに伝えられるようになりたい」と言った。「統合失調症のことや、時々混乱する自分の気持ちを言葉にするのは難しいけど、それでもちゃんと伝えられるようになりたいと思うんだ。」


美香さんが「それってすごくいい目標だね。応援するよ!」と言ってくれ、咲子さんもうなずきながら「私も……応援してる」と静かに言った。その声が温かくて、心に染みるようだった。


最後に美香さんが、「私はね、もう少し自分の時間を大事にしたいと思ってる」と話し始めた。「いろんなことに手を出すのが好きだけど、たまには自分を甘やかす時間を作ってもいいかなって思ってさ。」


「それも大事だね」と私は答え、「美香さんの元気はみんなを明るくしてくれるけど、たまには休むことも必要だよ」と付け加えた。


咲子さんも「……うん。美香さんが元気じゃないと、みんなも寂しいから」と微笑みながら言った。その言葉に、美香さんは少し照れたように笑った。


三人で今年の目標を共有した後、ふと美香さんが「じゃあ、今年も一緒に支え合おうね」と手を差し出した。私たちはその手に自分の手を重ね、小さく笑い合った。


お互いに目標を持ちながらも、無理をせず、支え合いながら進んでいく。その約束が、この新しい年をより明るいものにしてくれると感じた。


帰り道、私は新年の澄んだ空を見上げながら、心の中で静かに決意をした。今年もまた、少しずつ前に進むこと。そして、咲子さんや美香さんと共に、小さな一歩を積み重ねていくこと。


冷たい風が吹く中でも、私たちの間にある温かな絆が、確かな希望となって私の心を支えていた。

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