第27話 春の兆し
次のイベントに向けた準備が進む中、私たちは少しずつ自分たちのペースで作品づくりを始めていた。春をテーマにしたものを作るという決めごとは、私たちにとって一つの目標となり、少しずつ気持ちを前向きにしてくれるようだった。
カフェで集まったある日、美香さんがバッグから取り出したのは、淡いピンクと緑を基調にした小さな刺繍フレームだった。「見て見て!これ、春をイメージして作ったんだよ」と得意げに見せる彼女の作品は、草花や蝶が可愛らしく描かれていて、まさに春そのものだった。
「すごいね、綺麗だよ」と私が感心すると、咲子さんも「……すごく可愛い」と小さな声で褒めた。その言葉に、美香さんは少し照れたように笑った。
「咲子さんはどう?進んでる?」と美香さんが尋ねると、咲子さんは少しだけ頬を赤らめながら、「まだ途中だけど……これ」と言ってバッグから小さなポーチを取り出した。
それは花柄の布で作られたシンプルなポーチで、柔らかい色合いが咲子さんらしい雰囲気を醸し出していた。「これ、すごくいいね!」と美香さんが声を上げると、咲子さんは「……本当?まだ縫い目がガタガタだけど」と控えめに答えた。
「それがいいんだよ。手作り感があって、温かい感じがする」と私が言うと、咲子さんは少し安心したように微笑んだ。
私も少しずつ絵を描き進めていた。スケッチブックには公園で見た芽吹きの風景や、咲き始めた花、そして春の光をイメージした色が広がっていた。「まだ途中だけど、こんな感じで進めてるよ」と見せると、美香さんが「わあ、素敵!この色合い、ほんとに春っぽい!」と褒めてくれた。
咲子さんも「……すごく優しい感じ。春の空気みたい」と言ってくれ、その言葉に私は少し胸が温かくなった。
その日、私たちは作品づくりの進捗を見せ合いながら、これからのイベントに向けての意気込みを話し合った。お互いに励まし合い、笑い合いながら過ごす時間は、まるで少し早めに春が訪れたような気分にさせてくれた。
帰り道、咲子さんがふと「こうやって何かを作るのって、昔はすごく苦手だった。でも、今は楽しいって思える」とつぶやいた。その声には、彼女の中で少しずつ変化が起きているのを感じさせる確かな響きがあった。
「楽しいって思えるのはすごく大事だよね」と美香さんが笑顔で答え、「だからこそ、もっといろいろ作ってみたいよね」と続けた。
私も「そうだね。少しずつでも、こうして何かを作っていくことで、自分たちの中にも新しい季節が来る気がする」と言った。
冷たい冬が過ぎ去るのはもうすぐだ。春の訪れは、私たちに新しい可能性を感じさせてくれる。その予感を胸に、私たちはまた一歩前に進んでいく準備をしていた。
春はまだ遠いようで、確かにすぐそこに来ている。それは、私たち三人の中に生まれた小さな変化が教えてくれているようだった。
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