第2話 はじめてのカフェ

次の週、就労サポート施設で再び顔を合わせた私たち三人は、ふとしたきっかけで「どこかでお茶でもしないか」という話になった。いつもとは違う場所で少し気分を変えてみようと、美香さんが提案したのだ。彼女の明るい笑顔に後押しされ、私と咲子さんもその提案にうなずいた。


少し緊張しながら、近くのカフェに向かう。咲子さんはうつむきがちで、話しづらそうにしているが、どこか嬉しそうな様子も見えた。私も美香さんも、彼女が無理なく過ごせるよう、静かに歩調を合わせてカフェに向かう。


カフェに入り、注文を済ませてテーブルに着くと、少しの沈黙が流れる。咲子さんは何か言いたそうにしているが、なかなか言葉にできないようだった。その沈黙が気まずいものではなく、心地よい静けさに感じられたのは、美香さんがニコニコと微笑んで、場の雰囲気を和らげていたからかもしれない。


やがて、美香さんが軽く自分のチック症について話し始めた。小さい頃からずっと悩んできたこと、けれど今は受け入れて少しずつ自分らしさを見つけていることを、飾らずに話してくれた。その話に私は深く共感し、頷いた。


「私も統合失調症で、時々自分がどう感じているのかがわからなくなるんです。でも、そういう自分も少しずつ受け入れている途中で……」と話すと、咲子さんが静かにうなずいてくれた。


そして、しばらくしてから、咲子さんもぽつりと口を開いた。「私、場面緘黙症だから……話すのが怖くて。でも、ここだと少し安心できる……」


その言葉が私たちにとって、とても貴重で尊いものに感じられた。咲子さんが言葉にしてくれたその勇気が、私たち三人の間に確かな絆を築き始めた気がした。どんな小さな言葉でも、こうして少しずつでも分かち合えることで、お互いのことが少しずつ見えてくるのだ。


カフェの窓の外では、夕日が柔らかく街を照らしていた。三人で同じ場所に座り、同じ時間を共有することが、ただただ嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る