第43話 責任⑤
俺がドアを開けると、男三人が車座になって缶ビールを飲んでいた。
全員三十代で、ガラが悪い。
「な、なんだ! テメー!」
俺が突然部屋に入ってきたことで、男たちはかなり驚いていた。
「お前らに名乗る必要なんてない」
俺は男たちを睨んだ。心臓はドキドキしていて、喉はカラカラであったが、気合を入れて声を出した。
「警察か?」
男たちは俺のことを頭からつま先までを見てそう言った。
「いや、警察じゃないよ。見たらわかるでしょ」
どう見ても俺が警察官に見えるわけがない。
「だったらどこのどいつだ?」
男たちが中腰になって身構える。
「どこのどいつって、お前らが拉致した奴の友達だ」
「なに? ってことは、お前が三好らを?」
「まぁ、そういうことだけど。それより、お前らが三好を殺したんだな?」
俺がそう訊くと、男たちは三人で目を合わせた。言うか言わないか迷っているという感じだ。
「お前、それを聞いてどうするんだ?」
男の一人が言う。
「お前らの悪事を世間にさらして、今後そういうことができないようにするつもりさ」
俺は、少し気持ちが落ち着いてきた。
「フン、お前、このまま無事で帰れると思ってるのか?」
男たちは俺の雰囲気から余裕で勝てると思っているのだろう。まぁ、普通に考えたらそれはそうだと思う。俺なんていかにも喧嘩とは縁遠い雰囲気なんだから。
「そのつもりだけど……。お前らの相手なんて余裕だよ」
俺みたいな、いかにもなよなよした色白の男に言われて、男三人は少し呆気に取られていたようだ。
そもそも、男らが想像していた三好らを倒した奴っていうのは、もっと荒くれものだったのだと思う。俺みたいなのがそんなことをできるとは、誰も思わないだろう。
「余裕って、お前、なめんじゃねえぞ。一人殺した以上は、もうあとは一緒だぜ」
やはりこの男たちが三好を殺したのだ。
男たちは立ち上がった。一人はすでに手にナイフを持っている。ナイフは刃渡り三十センチぐらいだ。蛍光灯にギラリと怪しく光っている。
男三人はニヤニヤしていた。その態度からして、いかにも俺のことを舐めているという感じだ。
うわぁ、こんなの以前の俺なら、お漏らしして土下座している状況だよ。
俺はそんなことを思った。
「お前ら三人は、ひったくりグループのリーダーなんでしょ?」
俺は三人に訊いた。
「ああ、そうだ。お前がそれを邪魔してくれたけどな」
男の一人が答えた。
「邪魔しただけじゃなくて、今後もうそういうことができなくなるよ」
俺はこの三人をこのまま家に帰すつもりはない。もう顔も見られたし、身元もバレているだろうから、そんなことをしては後々面倒だ。
今日はそのつもりで初めから来ていた。だから顔を隠す必要もなかった。
「ほう、それはつまり、お前が俺たちを警察に突き出すってわけか? ヒヒ」
ナイフを持った男がいやらしく笑った。
「まぁ、そういうことだね」
「面白れぇ」
ナイフを持った男はそう言うと、一歩前に出た。
それに合わせて俺は身構えた。
「お前も、お前の友達も死んでもらうぜ」
男はそう言うと、一気に俺に向かってナイフを突き出してきた。
男のナイフが俺の腹部に向かってくるが、ゆっくりとした動きに見えるので、まったく怖くない。
俺はそのナイフを身体を横の動かしてかわすと、力いっぱいのパンチを相手の顔面に叩き込んだ。
ボゴっという感触が拳に伝わる。相手の顔の骨が砕けた感じがした。
男はそのまま壁まで吹っ飛んだ。そして、そのまま壁にもたれるような形でぐったりとした。口や鼻からは血が流れ出している。
「テ、テメー!」
もう一人の男が壁に立てかけていた木製のバットを手に持ってかかってきた。
しかし、それもゆっくりとした動きに見える。
俺は相手のバットが振り下ろされる前に、相手の懐に飛び込むと、相手の腹に拳を叩き込んだ。水風船が破裂するような感触があった。
「ウッ!」
男は一瞬声を漏らしたと思ったら次の瞬間口から大量の血を吐いた。
口から出た血が部屋の畳に広がった。
「ヒッ!」
最後の一人が小さく悲鳴を上げた。素手で殴られてこんなことになるなんて見たことがないはずだ。
俺はそいつの方へと身体を向けた。
「こ、この野郎!」
男は俺に素手で殴りかかって来た。
しかし、俺の相手ではない。
俺は相手の拳がこちらに届く前に、男の顔面にパンチを入れた。
俺の拳は、男の鼻をとらえた。そして鼻を中心に顔面がクレーターのようにへこんだ。
俺の拳には、骨が砕け散る感触が感じられた。
男は声を出すこともなく、そのまま後ろに吹っ飛んで壁に激突した。そして、骨組みが壊れたマネキンのようにばたりと倒れた。
三人はあっという間に戦闘不能の状態になった。そして、三人ともピクリとも動かなくなった。
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