第34話 ひったくりグループ③

「あの、これは臨時だからこんなの被ってるわけで、別にいつもこんなの被ってるわけじゃないからさ」

 俺はなぜか言い訳をしてしまった。

 桐山は俺とわかってホッとした顔になっている。

「そんなことはどうでもいいよ。邪魔だからあっち行けよ」

 男は手をヒラヒラとさせた。

「そうはいかん。お前ら、いまからひったくりに行くんだろう?」

「うん? 誰がそんなこと言ったんだよ?」

「えっ、そうじゃないの?」

「俺たちはただ集まって話してるだけだ。それが悪いことなのか?」

「え、と、いや、それなら悪くないけど……」

 俺はそんな風に言い返されるとは予想していなかった。てっきりうるせぇとか言いながら殴りかかってくると思っていたのだ。

「わかったら、消えろよ」

 男は高圧的に俺の方へと一歩踏み出した。

 一緒にいる何人かの男も、こっちを睨んでいる。

「あ、えと、そのう……」

 俺はこういうのって慣れてないのでどうしたら良いのかわからず、背中が熱くなって、冷たい汗が流れるのを感じた。

「早く消えろよ」

 男はさらに言ってきた。

「う、うるせぇ! 俺はお前らの会話を聞いてたんだよ。そいつは俺の仲間だ!」

 俺は苦し紛れに桐山を指さして言った。

「なに! お前そうなのか?」

 男は桐山に向かって言った。

「え、いや、その、アハハ」

 桐山はなんてこと言うんだという顔で俺の方を見た。

「ライン通話でずっと会話は聞いていたんだ。つまり、お前らの悪事はお見通しだ。そいつにひったくりをするように強要してただろう」

 俺は話していると吹っ切れて、調子が出てきた。

「そうかよ。じゃあ、仕方ねえな。おい」

 男は他の集まっている男に声をかけた。

 ファミレスに来た男と、集まっている三人の合計四人が俺のことを取り囲んだ。

 どうやらこの四人が主要メンバーのようだ。他の二人は桐山と同じで、おそらくSNSで集められただけなのだろう。

 俺はいつかかってこられてもいいように構えた。

「このまま帰すわけにはいかねえ。やっちまえ!」

 男の合図で、他の三人が俺にかかって来た。

 まずは一人が俺に殴りかかってくる。

 俺はそれを余裕でかわすと、そいつの顔面にパンチを入れた。

 手ごたえがあり、男はそのままそこに崩れ落ちた。あまり本気で殴ってしまうと話が訊けなくなるので手加減はしておいた。

「クソ!」

 別の男が同じように殴りかかってくる。

 これからひったくりに行くところだったせいだろう。特に武器になるようなものは持っていないようだ。

 俺はその男のパンチもあっさりと避けた。やはり相手の動きはスローに見えたから、なんの問題もなかった。

 俺はその男の襟元を片手でつかんで、ボールを投げるようにそのまま投げた。

 男の身体は宙に浮き、放物線を描いて五メートルほど飛んで地面に落ちた。

「グワッ!」

 男はアスファルトの地面に強く背中を打って息を詰まらせていた。

 次の男がかかって来たが、そいつは俺に近づくと同時に、腹に蹴りを入れてあげた。

「ウグッ!」

 男は腹を押さえた状態で、数メートル後ろに飛ばされた。

「後はお前だけだ」

 俺はファミレスに来た男に詰め寄った。

 こいつがこの場ではリーダーだろうから、一番話を聞かないといけない相手だ。

「クソ、こんなことしてただで済むと思ってんのか?」

 男はそんなことを言うのだった。

「いや、ただで済まないのはそっちだから。あんたがこのグループのリーダーなのか? それとも、もっと他にもメンバーがいるのか?」

 俺は男に訊いた。

「そんなことお前なんかに言えるかよ」

 男はそう言うと、苦し紛れに俺に殴りかかって来た。

 俺は仕方がないので、男の顔面を殴った。

「ウギャ!」

 男は一瞬声を出して、そのままその場に倒れた。

 俺は倒れた男の髪をつかんで、持ち上げた。

「おい、他にも誰かいるのか? 答えないとさらに痛い目を見るよ」

 俺に髪を引っ張られて、男は痛そうに顔を歪めている。

「誰が言うかよ」

 男はなかなか強気だ。こういう連中にも意地があるのかもしれない。

 俺は男の腹を強めに殴った。

「ウッ!」

 男は息を詰まらせて、さらに顔を苦痛に歪めた。

「言わないの?」

「い、言うかよ。クソが」

「じゃあ、仕方がないね」

 俺は男のことをそのまま地面に叩きつけた。

「グワァ!」

 男の顔面がアスファルトの地面に貼り付いた。

「どうしても言わないのか? じゃあ、とりあえずあんたらと同じように、こっちもあんたらの運転免許証を控えさせえてもらうよ」

 俺はそう言うと、男のポケットをまさぐった。男は地面にたたきつけられたダメージでぐったりして、抵抗することはなかった。

 財布があり、その中に運転免許証はあった。

 俺はそれをスマホで写真に撮った。

「お前、ホントに強くなったんだな」

 さっきまで唖然として様子を見ていた桐山が言った。

「やっと信じる気になった?」

「ああ、信じるよ。ところでこれからどうする?」

「とにかく、この連中の運転免許証を全部写真に撮ろう」

 俺と桐山は他の三人の運転免許証を出させて写真に撮っていった。

 リーダー格以外の男はもう諦めたのか、抵抗はまったくなかった。

「ところで、あなたたちはこいつらの仲間なの?」

 俺はなにもしなかった残りの二人に訊いた。

 この二人はまったく俺にかかってくる様子もなく、むしろビビって身を縮めていた。

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