第35話 ひったくりグループ④
「いえ、僕たちは、ただネットで見て応募して来ただけで……」
二人の男は申し訳なさそうにそう言った。
確かに見た目も、他の男と違ってガラの悪い感じがない、ごく普通の若者だ。
「そうなんだ。じゃあ、もう行っていいよ。こんなのに応募してはダメだよ」
俺はそう言ってその二人を解放した。
ネットで見たにしても、こんな仕事に気軽にバイト感覚で来るというのは困ったものだ。
「ねえ、本当に言う気はないの? 他にも仲間がいるんでしょう?」
俺はまたファミレスに来た男に訊いた。
「わ、わかった。言うよ」
男は額と鼻から血を流していた。鼻骨ぐらいは折れているだろう。さすがに敵わないと思って諦めたようだ。
「じゃあ、教えてくれる」
男はそこからポツポツと話していった。
他の三人は俺にやられたダメージでぐったりしながら、逃げたり抵抗することもなく、それをおとなしく聞いていた。
「なるほど、つまりあんたはそのさらに上のリーダーから指令があってやってるわけだ」
男が言うのは、上に三人組の男がいて、それらが本当の指示役で、この男は単にその男らの指示どおりにやっているだけということだ。
「そうだ。だから、俺もある意味では被害者なんだよ。俺だって上の連中に個人情報をつかまれているから逃げられないんだ」
男は急にそんなことを言うのだ。
「いや、被害者はひったくりに遭った人たちだよ。あんたはあくまで加害者だから、勘違いしてもらっては困るよ。確かに個人情報をつかまれて逃げれらないのかもしれないけど、あんたもこいつに同じようにやってるわけだし」
俺はそう言って桐山を指した。
「ま、そうなんだけど……。すまんかった。謝るよ。俺も上の奴らに金を納めないと怒られるからやるしかなかったんだ。すまん。だから上の三人組のことを話したってことは言わないでくれ。もし俺が話したってわかったら、俺がひどい目に遭わされる」
男は頭を下げた。
確かに男の言うとおりなんだろう。そういう手口で無理やり忠誠を誓わせて犯罪行為をやらせているということだ。そして、自分たちは安全圏にいるという卑劣なやり方である。
許せない。
「ところで、他の三人も同じような状況なの?」
「そうだ。みんな俺と同じだ。ただ、俺が一番古いからこの役目をやってるだけなんだ」
「ふーん、そういうことか。それで、その三人組はどこにいるの?」
「それは……」
男は言葉に詰まった。
「どうしたの? 言えないの?」
「いや、いまさら隠す気はないんだが、実は俺たちもどこにいるのかいまいちわからないんだよ。なっ?」
男は他の三人の方に向かって声をかけた。
「そうなんだ。俺たちも誰もその三人組がどこにいるのか知らないようになってるんだよ。三好さんがすべて現場は仕切ってるから、俺らはその人らに会う必要もないしな」
三人のうちの一人が答えた。
ファミレスに来た男は三好というようだ。
「どういうこと? でも会ったことはあるんでしょう?」
俺は状況がつかめなかった。
「もちろん、会ったことはある。だけど、今日みたいな感じでファミレスとかで会ったことがあるだけで、どこから来てるとか、どこに住んでるとか、そういうのはまったく知らないんだ。名前だって一応聞いてはいるけど本名じゃないと思うし」
三好が答えた。
「じゃあ、どういう時に会うの?」
「それは、ひったくった金を渡す時だ」
「ああ、そういうこと。じゃあ、今日もひったくりが終わったら会うことになってるの?」
「そうだ」
「よし、じゃあ、俺も一緒に行くよ」
「えぇ! それは勘弁してくれ。そんなことしたら俺殺される」
三好は顔をブルブルと横に振った。
「大丈夫だよ。ファミレスに行って金を渡して出てきたところを俺がやっつけるだけだから。もっとも今日は金はないけどね」
俺としてはそれぐらいしか方法がないと思った。
「そんな無茶な。俺は嫌だよ」
三好はどうしても行きたくないようだ。
「あのさ、どうせこのままだとその三人組にやられるよ」
「うっ、そ、それはそうかもしれない……」
「その三人組にはあんたが話したって言わないからさ。ファミレスから出てきたところをやっつけて、二度とそういうことをしないようにするだけだよ」
「だけど……」
三好は腹が決まらないようだ。
「じゃあ、その三人組と会うところに連れて行ってくれたら、あんたらのことは警察には突き出さないようにするよ。それでどう? そうじゃなかったら、いまここで通報するよ」
俺がそう言ってスマホを取りだすと、
「ま、待ってくれ。三好さん、お願いします。俺警察に捕まりたくないっすよ」
さっき話した三人のうちの一人が言った。そして他の二人も三好にお願いする。
「わかったよ。その代り、俺たちは警察に渡さないと約束してくれよ。それと、上の三人には絶対に俺たちが話をしたって言わないでくれ」
三好は気持ちを固めたようだ。
「オッケー。約束は守るよ」
俺は親指を立てた。
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