第36話 ひったくりグループ⑤
「どこのファミレスで会うことになってるの?」
俺は三好に訊いた。
「そいつとあったのと同じところだよ」
三好は桐山を指さした。
案外わかりやすいところだった。でも考えてみたら、ファミレスなんて変える必要もないか。
「何時にそこに行くことになってるの?」
「夜の九時だ」
俺は時計を確認した。いま夕方の四時過ぎだ。時間はまだまだある。
「どうしようか?」
俺はどうすべきかパッと思いつかなかった。
「あの、とりあえずどこで会うかはわかったんだから、その時間になったら行けばいいじゃない。もう個人情報は押さえたんだし、逃げないだろう」
桐山が横から言った。
「それもそうだな。じゃあ、夜の九時になったら、俺はファミレスの外で待ってるから、その三人組と一緒に出てきてよ。そうしたら俺がそいつらをやっつけてしまうからさ」
俺は三好に言った。
「でも、ひったくりをしてないから金がない。それだとマズい。絶対なんでなんだって責められる」
三好の行きたくなさそうだ。
それはそうだろう。
しかし、この三好だってあきらかに加害者なのだ。甘い顔はできない。
「いいじゃないの、別に。いくらその連中でも、ファミレスの中で殴ったりはしないだろう。制裁するにしても、どこかに移動してからだろから、出てきたら俺があっさりやっつけて終わるからさ。俺の強さはもうわかっただろう?」
俺の話に三好は仕方がないという風にため息をついた。
「じゃあ、決まった。今夜九時、あのファミレスで。一応言っておくけど逃げないようにね。来なかったらすぐに警察に通報するから。そっちの三人も捕まるよ」
俺がそう言うと、
「頼んます、三好さん」
と三人が三好に頭を下げていた。その雰囲気からして逃げないだろうと思えた。
そして、その場を俺と桐山は後にした。
「それにしても、お前って本当に強いな。驚いたよ」
歩きながら桐山が言う。
「言ってたとおりだろう。あれぐらい簡単だよ」
俺はいい気分だった。
「ファミレスから車で移動になった時はどうなるかと思ったよ」
「ラインをつないでいて良かったよ。あれがなかったらたぶんどこに行ったか見つけられなかったと思う」
「怖いな。そんなことになってたら、俺は断り切れずに、いまごろ実行犯になってるよ」
「そうならなくて良かったよ。俺も焦ったんだ」
「お前のおかげで助かったよ」
「それも変な話だけどな。だって、そもそも俺が助けに行く前提の話なんだし。それよりもお前の勇気の方がすごいと思うよ。俺のことをある程度は信じていたにしても、よく本当にやったよ」
俺は本当にそう思っていた。自分がやらせたようなものだが、冷静に考えるとかなり危険な行為である。
「いや、実は俺もちょっと面白いかなって思ったんだよ。これまでの人生、お前も知ってるとおり、つまらないものだったからな。こんなことをしてみたらなにか変わるんじゃないかって思ってな」
「なるほどね。お互いこれからの生活は様変わりしそうだな」
「それにしても、その被り物はダメだな」
桐山が俺の被っているレジ袋を指した。
「これは急場しのぎで被ったんだよ」
「もう脱いでも大丈夫だろう」
俺と桐山は、もう三好とかからは見えないところまで来ていた。
「そうだな。脱ぐよ。ああ、暑苦しい」
俺はレジ袋を脱いだ。額には汗が浮いていた。
「それにしても、他になにかなかったのか?」
桐山はあきれ気味だ。
「直前に思い出したんだよ。なにかで顔を隠さないとマズいってことを。それでそこにたまたまあったレジ袋を被ったってわけ」
「ハハハ、ま、それはそれである意味不気味さを演出できたかもしれないけどな」
桐山は笑った。
そのまま俺たちはいったん桐山の家に行った。
夜の九時にあのファミレスならまだまだ時間があるので、ゆっくりと休憩がしたかった。
なんだかんだ言って、俺たち二人にとってはとんでもない冒険をしたのだから、心身ともにかなり疲れていた。特に桐山はぐったりとしていた。
「すまんが、このまま俺寝るわ。お前も寝るか?」
桐山はそう言ってベッドに入った。
「いや、俺は起きておくよ。寝てしまったら気分が途切れそうだし」
ある意味で本番はこれからなのだ。
俺はさすがに寝るほどの余裕は、気持ちになかった。
「じゃあ、ゲームするなら、自由にしてくれていいよ」
桐山はそう言うと、すぐに寝息を立てだした。
緊張していたのだろう。その糸が切れたのだ。
俺は今回のことを振り返った。
珍宝院に出会って俺は変わったことは実感していたが、今回のことはこれまでとは質が違う。
これまでは自分からというよりも、向こうからやってきた火の粉を振り払っていただけだが、今回は自分から火を消しに行ったのだ。これはまったく性質が違う。
俺はこれからどうなっていくのだろう。
気分の高揚はあるが、それと同時に不安も大きかった。
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