第37話 ひったくりグループ⑥
時間になるまで俺はゲームをした。しかし、いろいろと考えてしまってほとんど集中はできなかった。
「おい、そろそろ行ってくるよ」
俺は寝ている桐山を揺すって起こし、言った。
「え、もうそんな時間か。お前一人で行くのか?」
「そのつもりだけど。だって別に今度は俺だけでいいだろ?」
「そんなこと言うなよ。俺も最後まで見たいから行くよ」
結局、俺と桐山は一緒に出掛けることになった。
疲れているようだったから気を遣ったつもりだったが、桐山も最後まで見たいというのは、もっともだった。
二人で桐山の家を出て、例のファミレスに歩いて向かう。時間としてはちょうど九時ごろには着くはずだ。
「ところで、その三人組をやっつけたら、その後はどうするわけ?」
桐山が訊いてきた。
「警察に突き出すよ。それしかないだろう」
「その場で通報するってことか?」
「そうだけど、なにか問題でもあるか?」
「問題というか、お前がその連中をボコボコにして、それで通報して警察が来たら、場合によってはお前が捕まるんじゃないの?」
「え、そういうことになるの?」
俺がまったく想定していないことを桐山が言った。
しかし、考えてみたら、そういうこともあるかもしれない。
「だって、その状況を見たら、お前が単に男三人をボコボコにしただけってことに見えるよ」
「確かにそうだけど、説明したらわかるだろう。その三人にも自白させればいいし」
「そうかもしれないけど、お前、またあのレジ袋を被るんだろう? 警察には絶対脱げって言われると思うぞ。まさかレジ袋を被った奴の話をすんなり聞いて信用してくれるとも思えないし」
「あ、そうか。その場で脱いだら連中に顔を知られてしまうな。じゃあ、やっつけた後は通報だけしてそのまま逃げるか」
言われてみたらそのとおりだ。そこで脱いでしまっては顔を隠していた意味がない。
「それと、もう一つ気になることがあるんだけど」
桐山が心配そうに言う。
「なに?」
「俺の免許証の写真のデータを消させないと。さっきは忘れてたよ」
「そうだった。忘れてたな。そのデータは三好って奴のスマホに入ってるだけかな?」
「たぶんそうだと思うけど、それは三好って奴に確認しないとわからないよ。ひょっとしたら、もうすでに上の三人にもデータを送ってるかもしれないしな。それにSNSのメッセージで送った分も消しておかないとダメだな」
「そうだな。とにかくどこの誰だかわからないようにしておかないと、後々厄介ごとに巻き込まれそうだし」
俺たちはこういうことに慣れていないから、やはりスムーズには行かない。手抜かりがあるのは仕方がないが、それにしてもドジな話である。
俺たちは話しながら歩き、そろそろファミレスに着くという時だった。中学の同級生二人連れとばったり会った。
中学の同級生なので、俺も桐山も顔見知りだ。
「あれ、桐山と梅田じゃん」
もう長らく俺の名字は出てなかったが、梅田は俺だ。
その同級生二人は、学校カーストで上位にいた二人だ。原田と小島といい、ハッキリ言って俺も桐山も嫌っていた二人である。
「久しぶりだな。まだお前ら仲良くしてんのか」
二人は俺たちのことを中学の時もバカにしていたが、そのままいまもバカにしているような口ぶりだ。
「あ、ああ。久しぶりだね」
俺と桐山はそう言ってさっさとやり過ごそうとした。
「おい、待てよ。ちょっとこれから飲みに行くんだけど、付き合えよ」
原田がそんなことを言いだした。
この二人が俺たちと飲みたいはずがない。中学の時もなにかと無理やり奢らされたが、どうせまた奢らせるつもりなんだろう。中学卒業以来会ってないのに、あの頃の感覚でいるのだ。
「いや、俺たちはこれから用事があるから」
俺がそう言って行こうとすると、
「ちょっと待てよ。どういうつもりだ。生意気だぞ。俺たちが誘ってやってるのに付き合わねえって言うのか」
と小島が俺の腕をつかんだ。
俺たちが誘ってやってるって、何様のつもりだ。
俺はムカッとした。
「放せよ。急いでるんだ」
俺がそう言うと、
「なんだテメー! 誰に向かって言ってるのかわかってるのか?」
小島が憤った。
「お前に向かって言ってるんだ。放せ」
俺は小島に言ってやった。
「この野郎、なめんじゃねえぞ!」
小島が俺の胸倉をつかんだ。
「おい、やめてくれよ」
そこに桐山が割って入ってきた。
「うるせぇ! お前も同罪だ」
小島は怒鳴った。
「おい、お前ら、中学のときみたいにボコってやろうか」
原田がすごんだ。
「そんな、やめてくれよ」
桐山は情けない声を出す。
「やれるもんならやってみろ。このオタンコナスが」
俺は小島と原田に向かって言ってやった。あまりカッコつかないセリフだったが。
「なにを、コラ!」
俺の胸倉をつかんでいる小島が、俺を自分の方へ引きつけながら殴ろうとした。
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