第38話 ひったくりグループ⑦

 そんな小島のパンチなど、当然俺にとっては非常にゆっくりとした動きで、避けるのになんの苦労も必要がなかった。

 俺は小島のパンチを、軽く手で払うようにしてコースをはずした。

 すると小島の拳はあっさりと空振りした。

「この野郎!」

 小島はムキになってさらに殴ろうとしたが、俺は付き合ってられないので、身体を返して小島を投げた。

 小島の身体は一瞬宙に浮き、そのまま歩道に投げ出された。

「ギャー!」

 小島が腰を強く打って悲鳴を上げた。

「こいつ、なにしやがる!」

 今度は原田だ。

 なにしやがるもなにもない。かかって来たのはこいつらなのだ。

 まったくこういう連中というは、都合よく物事を解釈するものだ。

 原田がつかみかかってきたが、俺は原田の腹に蹴りを入れた。

「ウグッ!」

 原田は息を詰まらせた。

「悪いが付き合っている暇はないんだよ」

 俺はそう言って、桐山とその場を去ろうとした。しかし、さっき投げた小島が起き上がってしつこくかかってくるのだ。

 こんなところで時間を使っていたら、ひったくりグループがファミレスから出てくるところに間に合わなくなってしまう。

 俺はそんな思いと中学の時の恨みも込めて、かかってきた小島を思い切りぶん殴った。

 小島は鼻血を飛ばしながら五メートルほど後退して倒れた。

 そんな小島を見ながら、原田もかかってくる。

「梅田の癖に生意気だ!」

 いまどきこんなことをいう奴がいるのかとあきれると同時に、原田に対しても過去の恨みを込めたパンチをお見舞いした。

 原田の顎を俺の拳がとらえて、原田は身体を回転させながら数メートル後ろに下がってドサッと倒れた。

 もう二人とも起き上がって来そうにはなかった。

「急ごう。連中が行ってしまうよ」

 桐山が言った。

 俺たちは急ぎ足で例のファミレスに向かった。

 そして、そろそろ着くという時に、

「あれ? あれって三好じゃないか?」

 と桐山がファミレスから出てきた車を見て言った。

 俺もその車を見た。確かに後部座席に三好の顔があった。そして、その車には四人が乗っていた。つまり三好以外は三好が言っていた上の三人ということだろう。

「マズい!」

 俺は思わず言ったが、四人の乗った車は、すぐに国道を走ってどこかに消えてしまった。

「おい、どうする? ここで見失ったら、あいつらを見つけられなくなるぞ」

 確かにそのとおりだった。

「それにしてもえらく早くないか?」

 俺は時計を確認した。まだ九時過ぎである。

「たぶん、お金を持ってないから、三人に三好が事情を話したんだろう。それでもうそれ以上話すことがないから、移動したんじゃないのか」

「移動って、それって三好がヤバいんじゃないか?」

「おそらく……。三好はただでは済まないだろうな」

「どうしよう?」

「どうしようって言っても……。もうどうしようもないよ。どこにいったのかわからないし」

 確かに桐山の言うとおりだ。俺たちにあの連中が行った先などわかるはずがない。

「なんか三好に悪い事したな。あいつ、嫌がってたのに俺たちが守る約束で行かせたのにな」

 俺はなんだか後味が悪かった。

「そうだな。でも、あいつも犯人の一人であることは確かなんだし、それに連中も仲間ではあるわけだから、そんなに無茶なことはしないだろう」

「そうだといいけど」

 俺はなんとなく嫌な予感がしていた。

「三好のこともあるけど、俺もヤバいかも」

 桐山が不安そうに言った。

「どうして?」

「だって、三好は俺の個人情報を持ってるよ。俺とお前が仲間だってことはバレてるだろうし、そうなると絶対連中は俺のところに来るよ」

「そうなるな。確かにそれはヤバいな」

「となると、俺が顔を隠していたのもあまり関係ないかも」

「そうだな。俺のことを調べたら、お前のことなんてすぐにバレるよ。たぶん。だって、俺、お前以外にほとんど友達なんていないもん」

 ここで桐山はなんとも寂しい話をするのだった。

 しかし、俺だって桐山以外に友達と呼べるような奴はいない。

「でも、考えようによっては、これであいつらを見つけることができるかも」

 俺はピンときた。

「どうしてだ?」

「だって、たぶん連中はお前に仕返しに来るだろう? その時に連中をやっつければいいじゃん」

「それはそうかもしれないけど、俺、怖いよ。いつ来るかわからないし」

 桐山としてはそうだろう。

「大丈夫だって。俺がちゃんと守ってやるよ」

 こんなセリフ、女の子に言いたかったよ。

「頼むぞ。あんな連中につかまったら、殺されるかもしれないし」

「そうだな。しばらくはお互いに注意しよう」

 俺と桐山は結局そのまま家に帰るしかなかった。

「もっとうまくできると思ったのにな」

 俺が言った。

「そうだな。慣れてないってこともあるけど、あまりに段取りが悪かったよ」

 桐山も反省しているようだ。

「強くなったからって、調子に乗って正義の味方みたいなことをやってみたけど、グダグダだよ」

「確かに……」

 桐山は苦笑した。

「でも、これから何度もやっていくうちに、徐々に慣れて段取りよくやれるようにはなるよな」

「お前、これからもこういうことをやるつもりなのか?」

 桐山は少し驚いているようだ。

「そのつもりだよ。お前は嫌か?」

「いや、実は、俺ももっとやってみたい気分になってたんだ。俺だけじゃあ、なにもできないけど、強くなったお前と二人で正義の味方ごっこもいいかもって思ってる」

 桐山は少し恥ずかしそうに言った。

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