第52話 ホスト⑦

「仕向けているのかもしれないけど、そういう私に、やるように仕向けているのはヒリュウじゃない」

 男はヒリュウって名前か。

「確かに俺がやるように仕向けたよ。だけど、男を釣る方法とかはお前が考えたわけだし、いまなんてむしろお前は楽しんでやってるじゃん」

 ヒリュウが言うのだった。

「エヘヘ、まあそうかもね。だって、面白いぐらいバカな男が私にお金を貢ぐんだもん。楽しくてやめられないわよ」

 藤堂は自慢げに言った。

 そこからしばらく、藤堂がいかに男をたぶらかし貢がせているかの話にをした。

 俺は聞いていて気分が悪くなった。

 身につまされる思いがした。

 そして、藤堂とヒリュウの二人は席を立った。

 やっと帰るのか。

 俺はバレないように下を向いていた。

 藤堂は俺の存在なんかに気づくこともなく、喫茶店を出て行った。

「はぁ」

 俺はため息が出た。

 しばらく動けなかったが、残っていた冷めたコーヒーを飲んで店を出た。

 俺はそのまま直接桐山の家に行った。

 このことを早く誰かに話したかったのだ。一人で抱えきれない気分だった。


「ちょっと聞いてくれ」

 俺は桐山の部屋に入るなり切り出した。

「なんだよ、いきなり」

 俺は少し驚いている桐山に一気に話した。

「そんな裏があったのか……」

 桐山も俺のから話を聞いて、ショックを受けていた。

「どう思う?」

 俺は桐山に訊いた。

「どうって、とにかくその藤堂って女をそのまま野放しにはできないだろう」

 桐山はムッとしていた。

「そうだな。被害者がどんどん出ることになるよ」

「それにしてもひどい話だな。どうせ藤堂って女の餌食になっている男って、俺たちと似たようなタイプばっかりなんだろう」

 桐山は怒り口調だ。

「そうだと思う。あの言い方からして、彼女ができずに中年になったような人を狙ってるみたいだ」

 俺たちと似たようなタイプっていうのが少し引っかかるが……。

「そうだろうな。そういう人って真面目で純粋は人が多いから、女に言い寄られたら、疑うことなく信じてしまうのかもな」

「まぁ、藤堂って美人だし、初めは疑ったとしても、何度やり取りしているうちに、ひょっとしてって思うんだと思うよ」

 藤堂は中身はともかく、見た目がいいのは確かだ。

「そうなったら、なにかと理由をつけて金を出させるって流れだな」

「そういうことだ。そして、その糸を引いているのは、ヒリュウって奴ってわけだ」

「そのヒリュウっていうのもホストか?」

「そうみたいだ。おそらくそのヒリュウって男が自分の売り上げのために藤堂に店に通わせて、今度は藤堂がその支払いのために、マッチングアプリで貢がせる男を探しているってことだ」

「そして、そのかわいそうな男が金を吸い取られると」

「だから、金の行き場としては結局はホストのところってわけだな」

「なんとも腹立たしいな」

 桐山は話しているうちにますます腹が立ってきたようだ。

「ああ、そうだ」

 俺も腹が立つ。

「となると、タカシマンの登場ってことだな」

 と桐山。

「そうだな。これ以上かわいそうな男を作らないためにも」

 俺もやる気だった。

「しかし、その被害に遭う男を助けるにしても、どうやる?」

 ヒリュウってホストを殴り倒しても良いのだが、どうもそれだけではダメな気がした。

 そもそも実行しているのは藤堂である。

「そうだな……。ま、ヒリュウって奴は殴り倒すにしても、藤堂を同じようにするわけにはなぁ」

「だろ? いくらなんでも女をボコボコにはできないよ」

 と俺は言った。

 実際、そういうことはしたくない。

「だけど、その女を放置していたら、ずっとやるんじゃないのか?」

「それはそうだろうな。ヒリュウに金を使わなくても、他のホストに使うようになるかもしれないし、そうでなくても、単純に金儲けのために続けるだろうな」

「それだと意味がないよな」

 俺と桐山は黙ってしまった。

「まぁ、とりあえず今度藤堂がそのカモと会う時に俺たちも行って、そのカモに真実を教えるっていうことにするか?」

 桐山が言った。

「うーん、そうだな。まずは目先の被害者を救おう」

 俺もその案に同意した。

 他になにも思いつかなかった。

「藤堂がいつカモと会うかはわかってるんだろ?」

「ああ、喫茶店で言ってた。自慢げにな。明後日の夜だ」

「さっきからカモって言ってるけど、被害男性な」

「そうだ。被害男性だ」

 俺たちは二人で笑った。

「オッケー、じゃあ、やるか」

 俺たちはそれからだいたいの作戦を決めた。

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