第11話 謎のドリンク③
俺はその日、すぐに桐山の家に行った。もちろん強くなったことを話すためだ。
俺が今日の出来事を桐山に話すと、桐山は信じられないという反応だった。
「お前、夢でも見たんじゃないの?」
「いや、マジなんだよ。これが。まあ、信じられないのも無理はないけど、ホントに力が湧き出てくるわ、相手の動きがスローに見えるわ。とにかくすごいんだ」
俺は今日体験したことを熱っぽく語った。しかし、それが災いしたのか、桐山はますます疑った。
「でも、お前を見る限りなにも変わった感じがないけどなぁ」
「いや、確かにそうだ。見た目はなにも変わっていないよ。だけど中身が変わったんだ」
「うーん、そう言われてもなあ。じゃあ、いまも力が漲っている感じがあるの?」
「え? そう言われてみれば、これと言ってなにもないかも」
「お前さあ、昨日うちに来たときもそんな感じだったよ。知らない爺さんからもらったドリンクを飲んだけど、なんの変化もなかったって」
「そうなんだけど、今日チンピラをやっつけたのは本当なんだよ。あ、そうだ。あれだけのことだからニュースになってるかも」
俺はスマホでニュースを検索した。
しかし、なにも出てこなかった。その代りに、以前爺さんが半グレ連中から助けてくれた時のことがニュースになっていた。
「あっ、これだよ。前に爺さんに助けてもらった時のことがニュースになってる」
「ええ、そうなんだ。どんな内容だ?」
桐山は興味を示した。
俺はさっと黙読した。
内容としては、半グレの二人が暴行を受けて瀕死の重体ということだった。二人とも会話が出来ない状態でなので、なにがあったのか聞き取りができないということだ。目撃者もいないとある。
俺は読んだ内容を桐山にざっと話した。
桐山はそれを聞いて、俺からスマホを取り、自分でも読んだ。
「ふーん、本当にそんなことがあったんだなぁ」
「なんだよ。いままでその話も信じてなかったのかよ」
「いや、そういうわけじゃないけどさ、ただ、あまりにも突飛な話だし」
桐山は頭を掻いた。
「それにしても、相手は三人じゃなかったのか?」
「三人だったけど、鼻を噛みちぎられた奴は逃げたんだよ。それでニュースになってないってことは、警察にも行っていないってことなんじゃないかな」
「そういうことか。まあ、確かに自分たちからカツアゲをしようとして、逆にやられたなんて警察に言えないか」
桐山は笑った。
「俺としては、あの二人が死んでなくて良かったよ」
俺はあの二人は死んだと思っていたから、少しだけ罪の意識が軽くなった。
「でも、わからないよ。瀕死の重体って書いてるし、先々助からないってこともあるかもな」
「ええ、そんな不吉なこと言うなよ」
「お前からカツアゲしようとした連中なんだから、死んだほうがいいじゃないのか?」
「お、お前、怖いこと言うな。いくらなんでもカツアゲされたぐらいで死んでほしいとまでは思わないよ」
「だけど、生きてたら仕返しに来るかもよ」
「おい、おい、ビビらすなよ」
「ハハハ、でも、もう大丈夫なんだろう? 強くなったんだし」
「あ、そうだった」
俺も笑った。
「だけど、本当に強くなったのか?」
話が元に戻った。
「なったよ。ニュース読んだだろう。俺がやっつけたチンピラのことは乗ってないけど、さ」
「じゃあ、ちょっと腕相撲をしてみようや」
桐山はそう言ってちゃぶ台に肘をついて腕を立てた。
「おお、いいぞ。腕を折ってしまうかもしれないぜ」
「やれるもんならやってみろよ」
俺と桐山はガッチリ手を組んだ。
「レディ、ゴー」
もともと腕相撲は桐山の方が強い。
しかし、いまの俺なら余裕で桐山を倒せるはずだ。
「はい、俺の勝ち」
なんと桐山があっさり勝ってしまった。
俺はこれまでとなにも変わらなかった。チンピラをやっつけた時のようなパワーは感じられなかった。いたっていつもどおりの俺だった。
「なんだよ。全然変わってないじゃん。ちょっとは期待してたのに、がっかりだよ」
桐山は残念そうに言った。
「おかしいな。そんなはずはないんだけど……。ちょっと、もう一回頼むは」
「いいぞ」
俺たちは、また勝負した。
しかし、結果は同じだった。
あっさり桐山が勝った。
「そんな。俺は生まれ変わったと思ったのに」
「そうがっかりするなよ。お前が昼間、チンピラをやっつけたという話は信じてやるからさ。なにかの奇蹟が起こったんだろう」
桐山は他人事だと思って、気楽にそんな風に言うのだが、俺のがっかりした気持ちは、これまでに味わったことがないものだった。
当たった一等の宝くじを換金しようとしたら、なくなっていたぐらいの感じである。
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