第12話 謎のドリンク④
「いや、こんなはずはないんだよ」
俺はどうしても納得できなかった。桐山が、俺に本当にパワーが宿ったことを信じていないのも腹立たしい。
「そんなはずないって言ってもさ、俺に腕相撲で勝てないのに、チンピラをボコボコにしたって言われてもなぁ」
桐山はどこか俺のことをバカにしているようだ。
「よし、わかった。今度の週末、街で悪い連中にこっちから絡んで行って、俺の強さを証明してやるよ」
俺はどうしても納得ができなかったので、そんな提案をした。
「おいおい、マジかよ。そんなことして大丈夫か?」
「心配するな。俺は本当に強くなったんだよ」
「でも、俺に腕相撲で負けたよ」
「それは、なんて言うか、たぶんだけど、実際に喧嘩の場面じゃないと力を発揮しないだけなのかもしれない」
「うーん、まあ、俺にはそれはわからないけど、そんなに言うのなら、付き合ってやるよ。じゃあ、今度の土曜に行ってみる?」
桐山は乗り気ではない。しかし、俺が悪い連中を倒しているところを見たら、その態度も改めるだろう。
土曜日、俺と桐山は二人で街に出かけた。
繁華街は人が多くいる。しかし、悪い連中といっても、探すと案外いないものだ。
ほとんどは家族連れかカップルだ。
俺たちはブラブラと街をうろついた。だが、やはり悪そうな連中なんていない。
途中、疲れたので喫茶店に入った。
「いないな」
桐山が疲れた声で言った。
「そうだな。なんで探すといないんだよ。会わなくていい時はしょっちゅういるのに」
俺はいらだっていた。
「ま、ちょっと探すところを変えた方がいいのかもな」
「探すところを変えるって?」
「だから、悪そうな連中が集まりそうな店に行くとか」
「なるほど。それってどんなところだよ?」
「まあ、そうだなぁ。クラブとか?」
「こんな時間にやってないだろう」
いまは昼の三時だ。
「確かに。じゃあ、ゲームセンターは?」
「昭和かよ。いまのゲーセンに不良って溜まっているのか?」
「どうなんだろう? 昔のドラマをネットで見た時はツッパリの兄ちゃんがいっぱいいたけどな」
「だから、それ昭和だろ」
俺と桐山はそんなやり取りをしていたが、結論が出ないまま店を出た。
脚の疲れは少しは癒えていた。
そして、どこを探せばよいのかわからないので、俺たちは結局ゲームセンターに向かった。ツーフロアある大きめの店舗だ。この街では一番大きなゲームセンターだろう。
そして、ゲームセンターに着いたが、ほとんどがクレーンゲームで、カップルとか家族連れが楽しんでいた。予想どおりだった。
「だから言っただろう」
「ホントだな。考えてみたらゲーセンなんて長らく来てなかったわ」
しかし、せっかく来たので、二階も見てみることにした。二階は一階とは違ってシューティングや格闘もののゲームが並んでいた。昔ながらのゲームセンターの雰囲気があった。
「お、ここならいるんじゃないか」
桐山は嬉しそうに言った。
「確かに」
俺たちはグルグルとゲーム機の間を練り歩いて、不良の兄ちゃんを探した。
すると、絵に描いたような不良の三人組がいた。
一人は金髪で、他二人はパーマを当てている。シャツのボタンを大きく開けて、胸元を出していた。薄い色のサングラスに、耳にはピアスだ。年の頃なら二十歳前か。
俺や桐山とは明らかに違う人種だ。
「あれ、ちょうど良さそうだぜ」
桐山がコソコソと俺の耳元で言う。
「そうだな」
「本当にやるのか?」
「そ、そうだな」
俺は自分の力を信じてはいるが、やっぱりわざわざ不良に絡んでいくのは怖かった。身体がこわばってしまう。
「お、おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、だと思う」
「無理するなよ。本当に行くのか?」
「い、行くよ。ちょっと待っててくれ」
俺がそう言うと、桐山は俺から離れて遠巻きに見る位置に移動した。
俺はゲームを楽しんでいる不良連中に近づいた。
連中は愉しそうにゲームをして、三人で盛り上がっている。
俺が近づいても、まったく気が付いていない。
「お、おい」
俺は男三人に向かって声をかけた。声は多少震えていた。
しかし、連中は誰も俺の存在に気づかない。ゲームの音がうるさいので聞こえなかったのだろう。
俺は改めて声をかけた。
「うん?」
一人がこっちを見た。
「なんだテメー」
いきなりすごんできた。
俺は身体がすくんだが、勇気を出して下がらないようにした。
しかし、よくよく考えると、ただゲームをしていただけの連中になんと因縁をつければよいのかわからなかった。
「君たち、ゲームばかりしてたらいけないよ」
俺はまったく迫力のない、しかも意味不明のことを言ってしまった。
「はあ?」
ガラの悪い男三人は、意味がわからないという様子である。
それはそうだろう。
「と、とにかく、遊んでばかりいないで、ちゃんと働きなさい」
ますます訳のわからないことを言ってしまった。
相手からしたら、なんで見ず知らずの奴にこんなことを言われないといけないのかって感じだろう。
「おい、お前、なんなんだよ。補導員かなにかか?」
「い、いや、そういうのじゃなくて……」
俺はどうしたらよいのかわからず、あたふたするだけだった。
「あっち行けよ。いま楽しんでんだよ。邪魔だ」
金髪が言った。
この金髪の言うことはもっともだと思ってしまった。
しかし、せっかく見つけた不良を逃しては、ここまでの苦労が水の泡だ。
「うるせぇ! このバカどもが。社会のゴミどもめ。遊んでばかりいねえで仕事しろ! お前らみたいな連中はこの日本に必要ねえんだよ。」
俺は思い切って言おうと思ったら、ちょっと言葉が過ぎてしまったようだ。
「なんだテメー。表出ろや」
男たちはいきり立った。そもそもそれが目的だったんだから良かったのだが、実際にいかつい不良三人に前に立たれると、ブルブルと震えてしまった。
俺は連中に連れられて、店を出ることになった。
周りの人はなにが起こったのかと興味本位で見ている。助けようって人はいない。店員もだ。
しかし、考えてみたら、それは当然だ。なにせ俺の方から喧嘩を売っていったのだから。
俺はゲームセンターを出ると、商店街の裏手にある人気のないコインパーキングに連れて行かれた。
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