第13話 謎のドリンク⑤

「おい、なめんじゃねえぞ、コラ!」

 駐車場に入ると、三人に囲まれた。

 俺はそんな中、桐山を探した。すると桐山は駐車場から少し離れた物陰から様子を見ていた。

「おい、俺たちに因縁をつけてただで済むと思ってんじゃねえだろな!」

 一人が俺のことを突き飛ばした。

 俺は一歩後ろに下がった。

 心臓はドキドキと鳴っている。恐怖心はあるが、前にチンピラを倒した時のことを思い出して、なんとか勇気を振り絞った。

「ゴチャゴチャ言ってないでかかってこい」

 俺は思い切って言い放った。

 すると、男三人はいきり立ち、

「なにをコラー!」

 と一人が殴りかかってきた。

 俺はそれを避けようとしたが、まともに喰らってしまった。

 顎を殴られて、その場に膝をついた。

 どうもおかしい。

 前のように相手の動きがスローに見えない。普通の速度だ。

 しかし、パワーとスピードはあるはずだと気を取り直し、俺は急いで立ち上がり相手に殴りかかった。

 だが、あっさりかわされて腹に膝蹴りを喰らった。

「グオッ」

 息が詰まった。

 そこからは、相手にいいようにやられてしまった。まるでサンドバッグである。殴りたいように殴られ、蹴られたいように蹴られた。

 そして、あまりに手ごたえがなかったせいなのか、しばらくおもちゃにされた後、

「弱いくせに調子に乗るな」

「このバカが」

「二度と顔見せるな!」

 と罵倒してそのままどこかへ行ってしまった。

 そこに桐山が走り寄ってきた。

「大丈夫か?」

 そう言いながら、俺を抱え起こしてくれた。

「大丈夫じゃないよ。全身痛い。見てただろう?」

「骨折とかしてないか?」

「とりあえず、それは大丈夫そうだ。全身がひどい打撲だけどね」

「お前、無謀にもほどがあるよ。全然強くないじゃん」

「俺もびっくりした。前の自分と全然変わってなかったよ」

「夢でも見たんだよ。きっと」

 桐山は慰めるように言った。

 それに対して、俺は言い返す言葉がなかった。

 俺は桐山に抱えられるようにして、家に帰った。

「じゃあ、俺はここで帰るから」

 桐山は俺を家の玄関先まで届けて帰っていった。

 俺は自宅に入り、両親に見つからないように自室に入った。

 なんだったんだ?

 俺はいったいどうなっているんだ?

 前のあの感じはどこに消えたんだ?

 俺は疑問だらけだった。どうしても納得ができない。前にチンピラをやっつけた時のあの感じが、今回はまるでなかった。

 そんなことがあるのだろうか?

 あのドリンクの効果がもうなくなったのか?

 俺は浮かんだ疑問をあの爺さんに質問したかった。しかし、あの爺さんに会うためには、また金満寺に行くしかない。

 前はたまたま自分のところに現れてくれたが、そんなたまたま現れるのを待っているわけにもいかない気分だ。

 とにかく今日は全身が痛いのでこのまま寝て、明日金満寺に行くことにした。


 そして、翌日になり、俺は朝から金満寺に向かった。全身のあちこちが痛いが、そんなことも言ってられない気分だ。あの爺さんに会ってあのドリンクの効果などを詳しく知りたかった。

 電車に乗り終点まで行く。そこからまた長い道のりだ。ダラダラ続く山道を、ハアハアと息を切らしながら歩いた。今回は駅を降りた時にスポーツドリンクは買っておいた。

 また金満寺に来た。前に来た時はもう二度と来ないと思っていたが、思いのほか早く来ることになった。

 俺は軽い扉を開いて境内に入る。

「すみませーん」

 俺がそう声をかけると、

「おお、あんたか。入れ入れ」

 今回は爺さんがすぐに現れて、そう声をかけてくれた。

「ああ、良かった。いなかったらどうしようかと思ってたんです」

「ワハハハ、わしはあんたが来ると知っていたからのう」

「え、そうなんですか?」

「そりゃそうじゃ。ところで、あのドリンクのことを訊きに来たんじゃろ」

「あ、はい。そうなんです。実はあれを飲んだんですけど、もう効果がなくなったみたいで」

 俺は早く謎が知りたいと急いで話し出した。

「まあまあ、慌てなさんな。そこに座って」

 爺さんに言われて、俺と爺さんは初めて会った時のように、賽銭箱の横の階段に、横並びに座った。

 俺はあのドリンクを飲んでからあったことを順に話した。

「ワハハハ、まあ、あれは一回飲んだだけじゃと、すぐに効果がなくなるんじゃわ。それで何度も飲んでいると、徐々に効果の持続も長くなる」

「そうだったんですね。あれって、飲んだときはなんにも変化がなかったんですけど、チンピラに絡まれた時には、急に効果が出たんですけど、そういうものなんですか?」

「そうじゃ。いざっとなった時に効力を発揮するんじゃ」

「でも、それだといざって時に効果が切れているってこともわからないってことですか?」

「まあ、そうじゃな。だから今回みたいなこともあり得るのう」

「は、はあ」

 それじゃあ、困るんだよ。

 俺は心の中で毒づいた。

「おいおい、あんな力が普段からあったら生活に困るぞ。みんなの動きが遅く感じるし、動けば早すぎたり力が強すぎたりでな」

 俺この心の中が読めたのか、爺さんはすぐにそう言った。

「た、確かに……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る