第14話 謎のドリンク⑥
「ま、今日またあれをあげるから飲みなさい。空きビンは持ってきたか?」
俺はカバンから空きビンを取り出した。捨てようと思ったのだが一応取っておいたのだ。
それを爺さんに渡すと、爺さんは着物を左右に割ってふんどしを見せた。そしてふんどしの脇からイチモツをポロンと出した。
「なにをするんですか?」
俺は爺さんの行動の意味がわからなかった。
「まあ、待ちなさい」
爺さんはそう言うと、ビンの中に放尿し始めた。ジョジョジョとビンの中に爺さんの尿が溜まる。
ま、まさか……。
「ほれ、これをまた飲めば効果が出る」
爺さんは俺にそのビンを突き出した。
まさかのまさかだった。
「あ、の、質問なんですけど、前に俺が飲んだのも、同じものですか?」
「そうじゃよ」
「えええええええ!!!」
「そんなに驚くこともないじゃろ」
爺さんはなにも特別なことはないという様子で言うのだった。
「そ、そんな。ジジイのションベンだったなんて」
「あんた、強くなりたいんじゃろ。だったらそれぐらいの細かいことを気にしてどうする。なんの努力もなしに強くなれるんじゃから、わしの小便を飲むぐらい楽なもんじゃろ。ワハハハハ」
爺さんは豪快に笑った。
「改めて訊きますけど、俺、それを飲んだってことですよね」
「そうじゃ。効果はあったじゃろ?」
「ありましたけど、おしっこってわかってたら飲まなかったですよ」
「そうか。じゃあ、これまでどおり情けない人生を歩めばいいじゃないか。わしは別に構わんぞ」
確かに爺さんの言うとおりだった。
俺が強くなりたいと願ったが、爺さんにとってはどうでもいいはずだ。しかし、実際に強くなるものを爺さんはくれた。それがおしっこだったにしても。
いまは勢いで、おしっこと知っていたら飲まなかったと言ったもの、冷静に考えたら、別に体調が悪くなったわけでもないし、味は良くはなかったけど、それほど飲むのが苦痛だったということでもない。
つまりデメリットはあまり見当たらなかった。
「あの、これって何回ぐらい飲めば、元に戻らなくなるんですか?」
「それはなんとも言えんな。ただ飲めば飲むほど効果は持続するぞ。でもな、これまでそんなに続けて飲んだ者がおらんのじゃ。だいたいは一回か二回で諦めるし、頑張った者でも五回ぐらいじゃったな」
「そ、そうなんですね。でも、これを飲んだら、その都度ここまでもらいに来ないといけないってことですか?」
「ハハハ、みんな同じ質問をするの。なあに、あんたが本気ならわしが届けてやるわい」
「本気なら、ですか」
「まあ、要はあんた次第ってことじゃよ」
「あの、もう一つ質問いいですか?」
「なんじゃ?」
「これってどれぐらいの頻度で飲むのがいいですか?」
「初めのうちは二日に一回ってところじゃろうな」
「じゃあ、初めは二日ごとにここにもらいに来ないとダメってことですね」
俺はこの金満寺までの道のりを考えると、ちょっと躊躇した。これまで何人か飲んだ者がいるようだが、続かないのもわかる気がした。
「嫌ならええよ。別に来なくても。わしは親切で言ってやってるだけじゃて」
爺さんは自分の尿を入れたビンを後ろに引いた。
「あ、ま、待ってください。わかりました。俺もこのままでは嫌です。続けて飲みたいです。それをください」
俺はチャンスを逃したくなかった。
よくよく考えたら、こんな機会はそうそうあるものではない。いや、例え爺さんのおしっこでも飲むだけで強くなれるのなんて、現代医学をもってしても無理な話だ。
それにあの時に体験した感覚は、絶対に他では得ることはできないものだということはわかる。
「ワハハハ、そうか。じゃあ、飲め」
爺さんは嬉しそうにビンを差し出した。
俺はビンを受け取る。ビンの口からは湯気が上がって来そうなぐらいの出したてホヤホヤだ。ビンから生温かい感触が伝わる。
俺はじっとそのビンを見て、そして口に近づけた。
「ああ、やっぱり飲めない」
さっき出しているところを見たので、どうしても抵抗感がぬぐえないのだ。
「なんじゃ、前に一回飲んだんじゃろ。もう同じじゃて」
爺さんはそう言うが、そんな簡単なものではない。せめて若いきれいなお姉ちゃんのならって思ってしまう。
しかし、そんなことは言ってられない。
俺は強くなって人生を変えるのだと、決意を固めた。
そして、ビンに口をつけ、一気に流し込んだ。
飲み込もうとするが反射的にえずく。だが、無理やり飲み込んだ。
「うげぇぇぇ」
味は前と変わらないはずだが、なにかわかってからの方がやはりマズくは感じる。
飲み終わると、急いで持っていたスポーツドリンクを飲んだ。
「ワハハハ、まあ、そうやって飲んでいると、人生を変えられるからの。ま、しっかり頑張りなさい」
爺さんはそう言うと、本堂の中へ入って行った。
俺は爺さんの尿を飲んで、ムカムカするのを我慢しながら、下山し家に帰った。
複雑な気持ちではあったが、これでまた俺は強くなっているはずだ。
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