第15話 謎のドリンク⑦

 俺はまた強くなった自分を試したかった。

 いったん家に帰ったが、もう一度出かけて、桐山とこの前行ったゲームセンターに向かった。前にやられた不良連中を探しに行ったのだ。


 ゲームセンターに入り、二階へと向かう。

 俺は店内をうろうろして前の不良三人を探した。あんな連中はいつも同じメンバーでたむろしているはずだ。

 すると、俺はゲームを夢中でしている、前の不良の一人を見つけた。どうやら今日は一人で来ているようだ。周りを見渡しても、他の二人はいない。

 俺は早速声をかけた。

 今回は躊躇はない。なにせついさっき爺さんの尿を飲んだのだ。

 俺はいまは間違いなく強いはずだと信じていた。

「おい、前のお返しに来たぜ」

 躊躇はなかったものの、こういうことに慣れていないので声は震えてしまった。

「あん?」

 ゲームに集中していたのを邪魔されて、男は不機嫌な声で言った。そして、俺の顔を見る。

「なんだ、テメー」

 どうやらこいつは俺のこと覚えていないようだ。

「ほら、前に俺のことをボコボコにしたでしょう」

 俺はなんとも迫力のない受け答えをしてしまった。慣れていないとは恐ろしい。

「ああ、この前の奴か。なんだよ。またやられに来たのか?」

 男は思い出したようだが、いまいち迫力がない。やはりこういう連中は仲間といないと勢いが出ないのだろうか。

「ハハハ、やられに来たんじゃないよ。やりに来たんだよ。表に出ろ」

 俺は少し話して気持ちが落ち着いてきた。

「ふん、バカバカしい。あっち行けよ」

 男は俺を相手にする気がないようだった。

 その態度に俺はカチンときた。

「立てよ。このピーマン頭が!」

 俺は怒鳴った。

 しかし、やはり男はあまりピンと来ていないようだ。

 ピーマン頭はちょっと迫力のない言葉だったかもしれない。

「ボケナスが、お前なんてボコボコにしてやるぜ。表へ出ろ!」

 俺はさらに言ってやった。

 それでも、男はイマイチの反応だったが、とりあえず立ち上がった。

「うるせえな。なんなんだよ。舐めてると痛い目見るぞ」

 男はすごんだ。

 おお、こういうのを求めてたんだ。

 俺は嬉しくなった。

「痛い目見させてみろよ。このチンカス野郎が」

 俺は調子が出てきた。

「テメー!」

 男は俺の胸倉をつかんだ。

「ここじゃあ、他の人にも店にも迷惑だ。前の駐車場に行こうや」

 俺はハードボイルドの主人公を気取って言った。

「おう、表に出ろ!」

 男も調子が出てきたようだ。

 俺と男はゲームセンターを出て、前に来たコインパーキングに行った。

「さあ、どこからでもかかって来い」

 俺は男に向かって言った。

 すると、男はすぐに俺につかみかかってきた。やはり相手の動きがすごく遅く感じられた。

 それに対して、俺はボディーブローを放った。身体が信じられないぐらい軽く感じられ、力が筋肉に漲っている。俺の拳が相手の腹にめり込んだ。そして、そのまま相手は数メートル吹っ飛んで、駐車していた車のテール部分にドンとぶつかった。

 そのまま男はぐったりとなった。

「あれ、やり過ぎたか?」

 男はそれっきりまったく動こうとしない。口からは涎と血が混じったようなものが流れ出していた。

 ヤバいかも……。

 俺は殺してしまったんじゃないかと心配になった。

 ぐったりした男に近づいて、相手の鼻のあたりに手をやって、息があるか確認してみる。

 どうやら息はあるようだ。

 しかし、男は気を失っていて、揺すっても反応がない。

 どうしたらものかと思ったが、ややこしいことになっても嫌だと思い、そのまま立ち去ることにした。

 なんて強さだ。

 俺は自分の手を眺めた。

 前にチンピラをやっつけたときは、あまり自覚なくやったけど、今回はハッキリと相手を倒そうと思ってやった。

 それだけに、ハッキリと手に感触が残っている。

 俺は嬉しくなった。

 これで俺は人生を変えるんだとワクワクした。

「やったぞー」

 俺は一人有頂天になって、スキップするように家に帰り、そしてすぐに桐山の家に行った。


「おい、俺、やっぱり強くなったぞ」

「はあ、お前また夢でも見たのか?」

 桐山はあきれ顔だ。

「いや、本当に強くなったんだ。前にあの不良にやられた理由もわかった」

 俺は今日あった金満寺での話や、その後のゲームセンターでの話をした。

「うーん、ホントにあの不良をやっつけたのか?」

「ああ、ホントだって。まあ、今日は一人しかいなかったけどな」

「あんな連中相手に一人を倒しただけでも十分すごいけど、でもなあ……」

「なんだよ。やっぱり信じないのかよ」

「だって、前はあんなにボコボコにやられたんだぜ」

「そうなんだけど、だから、その爺さんのおしっこを飲むと強くなるんだよ」

「おしっこを飲んで強くなるなんて、お前、大丈夫か? しっかりしろよ」

 桐山はまったく信じる様子がない。半笑いで俺の方を見る。

 内容が内容だけに、確かに信じられないのも無理はないが、俺はそれが悔しかった。

「じゃあ、またあの不良どもを倒しに行くよ。今日は一人だけだったから、残り二人に仕返しもしたいしな」

「本気か? 大丈夫かよ。また前みたいにやられるぞ」

「大丈夫だって。ちゃんと爺さんのおしっこを飲んでたら」

 桐山はあきれた顔をした。

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