第28話 感じる変化①
桜川の家でお茶をごちそうになった帰り、俺はそのまま桐山の家に行った。
今日あった出来事を話しに行ったのだ。まぁ、要は自慢話がしたかったわけだが、こういう話は桐山ぐらいしかできる相手がいない。
俺は桐山の顔を見るなり、今日のこととそれに至る経緯を話した。
「へえ、そんなことがあったんだ。それにしても、お前、よくその探偵を捕まえることができたな」
桐山は俺の話が終わるとそう言った。
「そんなの簡単だよ」
「でも、怖くなかったのか? 相手がどういう奴かわからないのに」
「以前の俺なら怖かっただろうけど、いまの俺は違うから」
「また、強くなったという話か? 本当なのかそれ?」
桐山はやはり疑っているようだ。なかなかしぶとい奴である。
「本当だって。そうじゃないと探偵を捕まえるとかできないだろう」
「いや、だから、その話自体がお前の妄想とかじゃないのか?」
「お前、いい加減にしろよ。俺の話がすべて妄想だって言うのか?」
さすがに少しムッとなった。
「いやいや、そういうことじゃないんだけど、お前のことをよく知ってる俺としては、どうもその話とお前がつながらないんだよなぁ」
桐山は悪気はないのだろう。それにその感覚は俺にも理解はできる。逆の立場だったら、俺も桐山の話を信じられない。
「まぁ、いいよ。もうそれは信じても信じなくても」
俺はそれ以上信じてもらう気がなくなった。
「あっ、言いたいのはそれじゃないんだ。実はさ、そういうことがあった後に桜川の家に入れてもらったんだ」
俺は一番自慢したいことを言った。
「桜川の家に!」
「そうなんだよ」
俺が一番自慢したいポイントだ。
「そ、それでなにをやったんだ?」
桐山も少し興奮しているようだ。
「なにってお茶を飲ませてもらった」
「お茶?」
桐山は少し身を乗り出した。
「そう」
「それでどうなったんだ?」
「いや、それでお茶飲んで帰ってきたんだ」
「それだけ?」
「それだけ」
「なんだよそれ。つまんねえ話だな」
桐山は急に興味がなくなったようだ。
「俺だって、もう少しなにかあるのかと思ったけど、なにもなかった」
「あいつって実家暮らしなの?」
「そうだよ」
「じゃあ仕方がないよな」
「そうなんだよ。結局、お茶飲みながら、改めてお礼を言われて、しばらく話をしたら、さようならって感じ」
正直、俺もあれこれ期待をしたのだが、桜川の部屋に入ることすらなかった。リビングのソファに座って雑談して終わりだった。
「それにしても、女の子が家に入れてくれるとなると、期待はするよな」
桐山は言った。
「そうだよ。でも、俺ってそういう経験がないから、桜川に迫られてもどうしたらいいのかわからないよ」
俺の正直な気持ちだった。
「そ、そうだよな。俺もわからん」
二人ともそう言って黙ってしまった。
それから何日か過ぎた。
桜川からは、あれ以来なんの連絡もない。ということは、あれからは誰かにつけられたりは、とりあえずないのだろう。
俺の方も、別に問題はなかった。ややこしい奴が襲ってくるということもなく、普通に日常生活を過ごせている。
そしてバイトの帰り、珍宝院が現れた。
「だいぶ自信がついてきたようじゃな」
珍宝院が会うなり言った。
「はい。だいぶいまの自分に慣れたというか、単に肉体的に強くなっただけじゃなくて、気持ちの方もそれに追いついてきたように思います」
「そうじゃな」
俺は珍宝院はなんでも知っているようだから、土井真治のことを訊いてみることにした。
「あの、土井真治のことなんですけど……」
俺がそう言いかけると、
「あの男はまだ諦めたわけじゃないよ。お前のせいでえらくプライドが傷ついたみたいじゃから、これからもなにか仕掛けてくるじゃろう。だが、しばらくは心配はいらんよ」
と珍宝院がすぐに答えた。
「やっぱりまだ諦めてないんですか」
「あの子との付き合いは諦めたんじゃろうが、お前とあの子に対して復讐したいという気持ちはまだまだ残っとる」
「ハア、そうなんですね」
「でも、しばらくはおとなしくしとるじゃろう」
「わかりました」
俺は気が重かった。こんなことになるとはまったく予想していなかった。
「お前はどう思っていようが、お前は特別な力を身につけてしまった。そうなった以上は、それに見合ったことをしていくことになる。わかるか?」
珍宝院は突然そんなことを言った。
「と、言いますと?」
「人は本人が望むとか望まないとか関係なく、持っている力に応じた活躍をしなければならないということじゃ」
「つまり力がついた以上は、それに見合った出来事に巻き揉まれるということですか?」
「簡単に言うとそうじゃ。お前はわしからその力を授かっていなかったら、いまの土井と関わることはなかったじゃろう。よく思い返してみなさい」
そう言われて思い返した。
確かにそうかもしれない。
チンピラにナンパされていたところを助けるまではしたとしても、そのままボコボコにされ、それ以上なにもしなかったと思える。
桜川が別れ話についてきて欲しいと言ってきても、俺は怖くて断っていただろう。
断らなかったから、すべてが始まったのだ。なぜ断らなかったかというと、強くなって自信がついたからだ。
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