第20話 改めての出会い②

 桐山は俺と桜川のことには興味がないようだった。

 俺としてはもっとあれこれ訊いて欲しかったのだが、思惑がはずれた。

 もっと話したいのだが、相手にが訊いてもいないのにベラベラ話すわけにもいかなかった。

「ところで、お前、以前に狙われてた不良をやっつけたって話をしてたよな?」

 桐山は別のことを質問してきた。

「ああ、やっつけたよ。やっと信じる気になったのか?」

「いや、そうじゃない。ただ、お前を狙っていた不良グループが逮捕されたってニュースは知ってるか?」

「逮捕?」

「そうなんだ。俺もネットニュースを見てたら、たまたま見つけたんだけどさ。あ、ちょっと待てよ。見せた方が早いな」

 桐山はそう言うと、スマホで検索を始めた。そして、目的のニュース記事を見つけたようだ。

「ほら、これ。この写真の男って、あのゲーセンでいた連中だろう?」

 桐山は俺にスマホを突き出した。

 俺はスマホを手に取り、写真を見てみた。すると、確かにゲーセンでこっちから絡んでいった時の不良どもだった。それと他にも、駐車場に後から合流した連中の写真もある。

「そうだな。こんな顔だったよ。それでなにやったんだ?」

「ニュースによると、ドラッグの売買をしていたらしいよ。結構手広くやってたみたいで、前から警察に目をつけられていたらしい。それで、他のグループともめたのか、その連中が三丁目の月極駐車場でボコボコにされて倒れてところを、警察が来て調べたら、ドラッグが出てきたということらしいよ。まぁ、前から目をつけられていたから、ここぞとばかりに調べたんだろうね」

 桐山はニュースで読んだあらましを話した。

「三丁目の駐車場って、俺がそいつらをやっつけたところだよ。へえ、あいつら本当にそんな悪いことをしてたのか」

 俺は改めて珍宝院が言っていたことを思い出した。

「これってお前がやったって言うのか? おいおい、ニュースには他のグループともめたって書いてるぞ」

 桐山はどうしても信じないらしい。

「いや、ニュースはどうかしらないけど、ホントに俺がやったんだよ。おそらくその連中は俺みたいなのにやられたのが恥ずかしいから黙ってるんじゃないか? それでそんな記事になってるんだよ」

「はいはい。わかったよ。ま、一応そういうことにしとこう」

 桐山は俺の話を聞くのが面倒なようだ。

 俺は口惜しかったが、いくら言ってもダメなようなのであきらめた。

 それにしても、珍宝院というのは本当に何者なのだ?

 普通では知らないようなことを知っているし、人の心も読めるようだ。

 しかもあの山から俺のところまで大きな鴉に乗って来ているという。

 珍宝院が普通でないのは理解できるが、だからと言ってそんなに現実離れしたことが現実にあるのだろうか。

 俺はそんなことを思った。


 俺は家に帰ると、すぐに桜川にメッセージを送ろうとした。

 しかし、いざ送るとなるとどういう文章にしたら良いのかわからない。考えてみたら、女の人に連絡を入れるなんて人生で初めてだ。

 そもそも、本当に連絡をしても大丈夫なのだろうかと考えてしまった。

 桜川は確かに遠慮なく連絡をくださいって言っていたけど、こういうのって、そのまま言葉通りに信じていいものなのだろうか?

 単に社交辞令で言ったことを、真に受けるほどカッコ悪いこともない。

 しかし、向こうからラインの交換も申し出てきたのだから、社交辞令ということもないだろう。

 俺はそんなことをグルグルと考えたが、結論は出なかった。

 しかし、このチャンスは積極的に活かすべきだという気がした。

 いや、でも向こうから連絡が来るのを待ってからでもいいのでは、ということも言える。

 俺は自分の決断力のなさが嫌になった。

 俺はいったんスマホを置いた。

「はあ、どうしよう。でもなぁ、一回連絡しておいた方が、これからのことを考えるといいよなぁ。その方が後々連絡しやすいし」

 俺は独り言を言った。

「このままもし桜川から連絡がなくて、時間がどんどん過ぎたら連絡しにくくなるもんなぁ。やっぱりしたほうがいいな」

 俺はまたスマホを手に取った。

 そしてアプリを開いて、メッセージを打った。

「今日は会えて良かった。これからもよろしくね。っとこれでいいかな」

 俺は改めて読み返した。

 なんだか初めてのメッセージにしては馴れ馴れし過ぎる気がする。

「今日は会えて良かったです。これからもよろしくお願いします」

 敬語に変えてみた。

 これはこれで堅苦しい印象だ。

 それに、俺と桜川は中学の同級生なんだという思いもあるので、やっぱり敬語は使いたくなかった。

 結局、何度も書き直した結果、初めの文章で送ることにした。

「送信、と」

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