第32話 ひったくりグループ①
「こういうのって、どこかに集合して仕事にかかるって感じなのかな?」
桐山は不安そうだ。
不安なのも仕方がない。犯罪行為とわかっていて、それに加わろうとしているのだ。
そして、そんなことをやる奴だから、真っ当な奴でないことは確かだ。
「それはそうじゃないのか。たぶんどこかに呼び出されて、そこからバイクにそれぞれ乗って仕事に行くって感じだろうな。仕事っていってもこの場合はひったくりだけど」
「そうだよな。じゃあ、その時点でそいつらを殴り倒して捕まえるってことだな?」
「そのつもりだよ。それで捕まえた奴からさらに仲間を訊き出して、そいつらを一網打尽にするってことだよ」
「お前さ、疑ってるわけじゃないんだけど、本当に大丈夫なのか?」
桐山はさらに不安そうになった。
「なにが?」
「だって、相手の人数がかなりいたら、お前一人で対応できるのか?」
「それは大丈夫だよ。複数人でも結局はやることは一緒だから」
俺としては、以前不良をやっつけた時も相手は複数だったし、特に問題はないと考えていた。
珍宝院もそう言っていたし、時間は多少はかかるにして逆にもやられるとは思っていない。
「そ、そうか。じゃあ、信用するけど。もう運転免許証の写真も送ってしまったしさ」
「大丈夫だって。俺を信用しろ」
と俺が言った時だった。スマホが鳴った。
「あ、返信だ」
桐山が言った。
「なんて書いてある?」
「ファミレスに明日の十五時に来いだって」
桐山が返信の内容を見て言った。
「ファミレス? どこの?」
「ギャストだって。あの国道沿いの」
「へぇ、そんなところに集まるのか。案外普通というか、マルチの勧誘とかみたいだな」
「うーん、まぁ、とりあえず行ってみるしかないよな」
桐山はそうは言うものの、やはり不安そうだ。
「それにしても、そんなに急に呼び出すんだな。明日って早くない?」
「気が変わる前にやらせるってことなのかもな」
「じゃあ、俺たちもきちんと作戦を考えよう」
それから俺たち二人はどうするかを細かく話し合った。
翌日、桐山は一人でファミレスのギャストに行った。
俺はその後、少し遅れてギャストに行った。
桐山と俺とはライン通話の状態にして、話している内容が聞けるようにしておいた。
桐山が店内に入ったのを確認して、俺もその後店に入った。
店内は中途半端な時間のせいか、かなり空いていた。
俺は桐山の位置を確認して、そこから少し離れた席に座った。
桐山は知らない三十歳ぐらいの男と同席していた。その男が例のグループの一人ということなんだろう。
俺はドリンクバーだけ注文し、コーラを汲んできて席にまた着いた。
耳にはイヤホンをしていて、桐山と男の話声が聞こえる。ただ、音声は悪い。桐山がスマホをポケットに入れているので、桐山の声はともかく、相手の男の声は辛うじて聞こえるぐらいだ。
二人の会話は、普通にバイトの面接のような感じだった。それを聞いている限りは、これから犯罪行為をしようとしているようには思えない。
俺は、他にも誰か来るのかと思っていたが、誰も来そうになかった。
どうやら、桐山だけのようだ。
俺はどこであの男を捕まえるのか考えた。
ここではさすがにやめておいた方が良さそうだ。店にも迷惑だし、もう少し仲間が集まったところの方が効率も良いだろう。
俺がそんなことを思っていると、二人は席を立った。そして、会計を済ませて店を出た。
桐山は店を出るとき、俺の方をチラッと確認した。
俺も遅れないように、慌てて会計を済ませた。
俺が店を出ると、二人は白い車に乗り込んだ。
「えっ、車? まずい!」
俺はそんな風に思ったが、どうしようもなかった。
俺と桐山は歩いてファミレスまで来たので、車で移動されては後をつけられない。
「車が駐車場から出て行くのを見ていると、桐山はものすごく不安そうな目で俺を見ていた。
そりゃそうだよな。
どうすんだよって、思っているだろう。
考えたら、こういうことは十分想定できたが、俺も桐山もこんなことをやったことがないので、こういうミスも起こりうるってことだ。
そんなにうまくいくはずもない。
だけど、そんなことをいま思っても仕方がない。
俺はイヤホンから聞こえる音に集中した。
どこに行くのかさえわかれば、とにかくそこに行けばいいのだ。
イヤホンから聞こえる会話はとぎれとぎれだ。しかし、桐山もこれだけが頼りとわかっているのだろう。ファミレスの時よりも大きな声で話していた。
「いまからどこに行くんすか?」
桐山が訊いている。
「河川敷だよ。そこにみんな集まってる」
男が言っている。
「河川敷? どこのですか?」
「行けばわかるよ」
男は詳しく答えなかった。
わああ、どうすればいいんだよ。河川敷って言われてもわかんねえよ。
俺は慌てたが、とりあえず国道に出てタクシーを探した。
しかし、なかなかタクシーが来ない。
やばい。
俺は冷や汗が出た。
桐山をとんでもない危険にさらしてしまっているのだ。
このままだったら、あいつは犯罪をしないといけなくなるよ。
俺は焦りに焦って、とにかくタクシーを探した。
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