第31話 感じる変化④
「あーあ、ホントに送っちゃったな」
桐山が言うのだった。
「お前、そんなこと言うなよ」
俺は急に不安になる。
「でも、いまだったら、返信が来てもそのまま無視すれば済むよ」
桐山としては、本当はそうして欲しいのだろう。
「そ、そうだな……。でも、やっぱりここは実際にこいつらと会って退治しないと」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「この前、ゲーセンの不良をやっつけた時に、後々復讐ってことになったじゃん」
桐山が言う。
「そうだな。それがどうかしたのか?」
「今回も、同じようなことになるんじゃないのか? 例えばそこで会った奴を退治したところで、また後から別の仲間が復讐に来るとか」
「確かに……」
「お前、それでも大丈夫なのか?」
「それはまずいよな。安心して日常生活が送れなくなる」
「そうだろう。だから、やめておけよ。こんなこと」
桐山の言うとおりだと思った。
こういうグループはメンツもあるから、仲間がやられたからと言って、そのまま放置しないだろう。
それに、いまのところどの程度の規模のグループかもわからないのだ。ひょっとしたらかなりの規模の組織だとしたらどうしよう。
やるなら全滅させる気で行かないとまずいよなぁ。
俺はそんなことを考えていると、どんどん気が引けてきた。
そこに返信が来た。
「あっ、もう返信が来たよ」
俺はもう少し考える時間が欲しかった。
「どんな内容だ?」
桐山が俺のスマホをのぞく。
「えっと、『それでは登録が必要なので本名と住所、生年月日、それがわかる身分証明書の写真を送ってください』って書いてるよ」
「仕事の内容は書いてないのか?」
「うん、なにも書いてない」
「これじゃあ、なにするのかまったくわからないよ」
「そうだな。こんなんで応募する奴っているのか?」
俺は不思議に思った。
「そうだよな。報酬金額とかも書いてないのか?」
桐山が訊く。
「ここには書いてない。ただ……」
俺は過去の投稿を見た。するとそこには日当七万円と書いてある。
「七万円か。一日でそれっていうことは結構な額ではあるよな。それなら行く奴もいるかも」
桐山は変に納得していた。
「じゃあ、お前行くか?」
俺が言った。
「えっ、俺? 嫌だよ。冗談だろ」
桐山は当然の反応をした。
だが、俺は冗談のつもりでは言ってなかった。
「いや、お前がさっき言ってたけど、俺が自分で乗り込んで行って、こいつらをやっつけたとしても、その後のことが考えると面倒だろ。それなら、お前が応募してこいつらの居場所とかを特定出来たら、俺がこいつら全員その場でやっつけるからさ」
俺は自分の考えを説明した。
「でも、お前も顔見られたらアウトじゃん」
「だから、こいつらの前に出る時は覆面とかしておけばいいだろ」
「ま、まぁ、そうかもしれないけど……。でも、俺が応募するのか?」
「頼むよ。お前もこんな連中を野放しにしておくのは良くないと思うだろう?」
「そりゃ、まぁ」
「だったら協力しろよ」
「う、し、しかしだなぁ……」
「大丈夫だって。俺は本当に強いんだから。たぶんこんな奴らあっと言う間にやっつけて終わりだよ」
俺は、初めはそんなつもりはまったくなかったが、いまは桐山を巻き込みたかった。
考えてみたら、これは桐山にとってもチャンスだ。
桐山も俺と同じで、これまでつまらない人生を過ごしてきたのだ。おせっかいな話かもしれないが、その人生を変えるチャンスがやって来たと感じたのだ。
「信じてないわけじゃないぞ。だけど、お前本当に強くなったんだよな?」
桐山はどうやら少しその気になったようだ。
「強くなった。そうじゃなかったらこんなことしようと思わないだろう?」
「確かに。じゃあ、俺がこいつらと会うときは、すぐに来て助けてくれるんだよな?」
「ああ、もちろんだよ」
俺はハッキリと言い切った。
「わ、わかったよ。じゃあ、俺が応募するから。頼むぞ。ホントに助けてくれよな」
「任せとけ!」
それから簡単に作戦の打ち合わせをした。
その内容はこうだ。
まず桐山がこの怪しいバイトに応募する。そして実際に現場に行く。そしてそこに覆面をつけた俺が出て行って、連中を捕まえ、さらにそのバックにいる連中のことを訊きだし、そのバックにいる仲間もやっつけるのだ。だが、俺と桐山はあくまでまったく知らない者同士ということで通す。そうすれば桐山も俺も後々面倒なことにならないだろう。
「じゃあ、返信するぞ」
桐山は本名、住所、生年月日を書いて送信した。それから続けて運転免許証の写真も送信した。
「よし、これであとは実際に現場に乗り込むだけだな」
「頼むぞ。ちゃんと俺を助けてくれよ」
「任せとけって。こんな連中を倒すなんて朝飯前だ」
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