第30話 感じる変化③
「あ、そう言えば、お前強くなったんだよな? 喧嘩」
桐山が不意に言った。
「まあね。お前は信じていないようだけど。それがどうかしたか?」
俺は嫌味な感じで答えた。
「信じていないということじゃないけどさ、ホントに強くなったんだったら、このひったくりグループをやっつけてくれよ」
「は?」
「だって、お前はこの前不良グループも退治したってことだし、この連中も退治できるんじゃないのか?」
「そりゃ、まぁ、できるとは思うけど……」
突然の提案に俺は戸惑った。
「じゃあ、やってくれよ。これ以上被害者が増えないようにさ」
桐山は少しにやけながら言った。
「お前、簡単に言うけど、そもそもどうやってこの犯人らを見つけるんだよ。どこにいる奴らかわかれば退治できないこともないだろうけどさ」
俺は見つけることさえできれば退治する自信はあった。それだけの力は俺にはすでにあるはずだ。
「確かにそうだけど、SNSで実行犯を募集してるってことだから、それに応募したらどうだ?」
「まぁ、確かにそうすれば見つけることはできるかもしれないけど、そもそもその募集っていうのは本当にしてるのか?」
「してると思うよ。俺のバイト先に、その募集を俺に見せてきた奴がいたもん」
と桐山は言うのだ。
「それなら、その人にまた教えてもらったら、募集してるアカウントはわかるな」
「そうだな」
「じゃあ、早速明日教えてもらってくれよ」
「えっ、お前本気なのか?」
桐山は驚いていた。
「本気だよ」
「いやいや、待てよ。俺は冗談で言ったんだぜ。やめとけよ。危ない」
「大丈夫だよ。このまま放置するのも良くないだろう」
「いや、そうだけど、これは警察に仕事なんだから。お前とか俺のようなフリーターがやることじゃないって」
「そりゃそうだけどさ、俺はせっかく得た力を世のために活用したいんだよ」
俺は本気でそう思っていた。
珍宝院が言っていたように、自分から望まなくても、これからの俺の人生は様変わりするだろう。それなら自分から積極的にそうしたいと思うのだ。
「お前、大丈夫か? 熱ないか?」
「大丈夫だ。俺は本当に変わったんだよ」
「は、はあ、そ、そうか。わかった。じゃあ、とりあえずその募集してたっていうアカウントは聞いてくるよ」
桐山は俺が強くなったということを信用はしていないようだが、それはもうどうでも良くなっていた。
それよりも、俺は自分が変わっていくことそのものに興奮していた。当たり前だが、以前の俺ならこんなことに自分から関わろうとするはずがなかったのだ。
翌日、桐山は犯人のものらしいアカウントをバイト先で聞いてきた。
「これがそのアカウントらしい」
俺も随分前にそのSNSのアカウントは作っていた。ただ、作っただけでなにもしていなかった。
俺は久しぶりにそのアカウントにログインし、桐山に教えてもらったアカウントを探した。
そして、それはすぐに見つかった。
チラチラと過去の投稿を見てみる。
「確かにそういうのを募集してるみたいだな」
桐山が横から見ていて言う。
「これってそういうことなのかなぁ?」
募集と言えば募集なのだが、内容がさっぱりわからない。
「『簡単に稼げる仕事です』ってそうだろ」
桐山が投稿を読んで言った。
「でも、これがひったくりの実行犯募集ってどうしてわかるんだ?」
「それは、教えてくれた奴が言うには、犯罪だからはっきりと書かないそうなんだよ。それでこうやって簡単に稼げる仕事ってことで募集して、実際に来てから仕事を教えるらしいんだ」
「なんか回りくどいな」
「そりゃそうだろ。堂々と募集できるわけないんだし。それに、応募する方だって犯罪ってわかってたら来ないだろ」
「ま、それはそうかも」
「だから、そうやって釣り広告みたいな感じで募集して、来た奴の身分証とかを確認して、逃げられないようにしてから、半分脅すように実行させるってことみたいだよ」
「なるほどな」
「お前、ホントにやるのか?」
桐山は心配そうだ。
「やる、よ。あ、でも、どうしよう……」
俺はいざ投稿主にⅮMを送るとなるとさすがに躊躇した。
「お前が強くなったってことは、こんなことをしなくても信じるからやめておけよ」
桐山は自分が俺の強さを疑っているから、こういうことをして俺が強さを証明しようとしていると思っているようだ。
しかし、そんなことを言うのは、俺の強さを疑っているということだ。
桐山の言葉で、俺は逆にやる気になった。
「いや、やるよ」
俺は仕事の詳しい話を聞きたいという内容のⅮMを送った。
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