第42話 責任④

 しばらく走るとタクシーは止まった。

「この道をこのまま少し歩いて交差点まで出たら、言ってる青い壁の家が見えるよ」

 運転手が言った。

「ありがとうございます」

 俺はタクシーを降りた。

 さて、どうしようか?

 まずはその家が桐山の捕まっている家なのか確認する必要があるな。

 俺は歩いてとりあえず交差点まで行った。

 交差点まで出ると、その角に青い壁の一軒家が確かにあった。

 大きさ自体はどこにでもあるサイズだし、造りとしてもどこにでもあるような家だが、壁面がすべて真っ青だ。こんな色の家はあまり見ることがない。

 もうすでに日は暮れているが、外灯の明かりでも十分にそれがわかるぐらい特徴的だ。

 空き家ということらしいが、二階の一室に明かりが灯っていた。誰かはいるらしい。

 俺は緊張しながら、その家に近づいた。そして、周りから家の様子を伺った。

 しかし、物音は聞こえないし、明かりこそ点いてはいるが、特に人の気配はなかった。

 俺は、低いブロック塀があったが、それを越えて敷地に入った。敷地内はそれほど余裕があるわけではない。ブロック塀を越えたら、すぐにそこは建物だ。

 そして、窓から中を覗いてみた。

 すると、真っ暗な部屋の中に人が寝転がっているのが見えた。しかし、暗いのでそれ以上のことがあまりわからない。

 俺は目を凝らしてよく見た。

 徐々に暗さに目が慣れてきて、少しずつなにかわかって来た。

 そこに寝転がっているのは桐山だ。顔はハッキリわからないが体格や服装でわかった。手足を縛られているようだ。

 部屋には桐山以外はいないようだ。

 俺は、小さく窓を叩いた。コツコツと小さく音が鳴った。

 しかし、桐山はなんの反応も示さない。

 俺はもう一度叩いた。

 すると、桐山が少し体を起こして窓の方を見た。

 俺は手を振った。

「あっ、タカシ」

 桐山は驚いてはいたが、囁くようにそう言った。

 俺は手で待てと合図をし、窓を開けようとしてみたが、さすがに鍵がかかっていた。

 俺は仕草で窓の鍵を開けるように桐山に指図した。

 桐山は二度ほど頷いて、縛られた状態ではあるが、芋虫のようにモゾモゾと動いてなんとか窓のところまで来た。そして、口で窓の鍵をなんとかはずした。

 俺は窓を静かに滑らせて開けた。

「助けに来た」

 俺は小声でそう言うと、静かに窓枠を越えて中へと入った。

「ありがとう。よくあれだけでわかったな?」

 桐山の顔は半泣きである。

「まあね。やったのはやっぱりあの三人組か?」

「そうだ。いま上にいると思う」

 桐山は瞼を腫らしていた。どうやら殴られたようだ。鼻血も流して固まっている。

「ひどい目に遭ったみたいだな?」

「ああ、お前ら何者だ? って話からどこの組織の者だとか散々訊かれたよ」

「それでしゃべったのか?」

「そらしゃべったよ。初めは耐えたけど、この顔を見たらわかるだろう。とてもじゃないけど耐え切れないよ。とは言っても俺たちって別にどこの者ってわけでもないし、組織って言われてもなんの組織もないだろう。だから、初めは信じてくれなくてさぁ。嘘つくなって散々殴られたよ。すまんが、お前のことも話してしまった」

「俺のことは別にいいよ」

「とにかく逃げよう。この縄を解いてくれよ」

 桐山は言った。

「オッケー」

 俺は桐山の縄を解いていった。

「じゃあ、ここから逃げよう」

 桐山は俺が入ってきた窓の方へと向かった。

「待てよ。このまま逃げても解決しない。奴らを倒してくるよ」

 俺がそう言うと、

「ええ、マジか? 相手はこの前の連中と違ってナイフとか持ってるぞ。大丈夫か?」

「大丈夫だよ。せっかく連中の居所がわかったんだから、こんなチャンスはない」

「まぁ、そうだけど……」

 桐山としては一刻も早く逃げ出したい気分なのだろう。それは理解できた。

 しかし、このまま逃げてもまた同じことの繰り返しだ。それにここで連中を叩きのめさないと俺の気が済まない。

「ここで待っててくれ。連中は三人とも上だよな?」

「ああ、そうだと思う。お前のことを訊き出した後、腹が減ったとか言ってコンビニの袋を持って二階に上がっていったみたいだから」

「そうか。よし」

 俺は足音をさせないように気をつけながら、二階へと上がった。

 階段を上がるごとに男の話声が聞こえてきた。

 二階まで上がると、一つの部屋のドアの隙間から明かりが漏れている。

 俺はそのドアの前まで行った。

 俺はゴクリと唾を飲んだ。

 ドアに耳を近づけて話し声を聞いてみた。

 あまり大きな声で話しているわけではないが、声から三人いることがわかった。どうやらなにか食べながら、酒でも飲んでいるのだろう。

 俺はドアノブに手をかけた。

 よし、と自分に言い聞かせて、ドアを一気に開けた。

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