第41話 責任③

 ほとんど眠れなかったので、かなり眠い。

 今日はこのまま家で寝てようかと思ったが、アルバイトを休んでばっかりでは来月の収入に関わる。

 時給生活の辛いところだ。

 俺は眠いが、このまま家にいても眠れそうにはなかったので、アルバイトに行くことにした。その方が気分もまぎれるかもしれない。

 その日、眠気をこらえながらなんとかやるべきことをやった。おかしなもので、寝てもいい時は眠れなかったのに、寝てはいけない時には立ったままでも寝てしまう。

 アルバイトが終わり帰っている時に、スマホを何気なく確認した。するとラインの通話が入っていることに気づいた。桐山からだった。連絡があったのは一時間ほども前だ。

 俺はすぐにかけ直したが桐山は出なかった。

 嫌な予感がした。

 一時間前というと、桐山がバイトを終えて帰っているぐらいの時間だろう。ひょっとしたらその時になにかがあったのかもしれない。

 しかし、どうしようもなかった。

 それに実際になにかあったのかどうかもわからない。ただ単に連絡して来ただけということもあり得る。とりあえず、急いで桐山の家に行くことにした。

 桐山の家に行くと桐山は留守だった。桐山のお母さんが言うには、朝バイトに行ってまだ帰ってきていないということだ。

 その時点で俺は改めて、桐山に連絡をした。しかし、やはり応答はなかった。

 どうしようか。

 俺は考えたが、いまの時点ではどうしようもない。本当になにかあったのかもわからなければ、仮に例の三人組に捕まっていたとしても、どこにいるのかまったくわからないのだ。

 俺はいったん家に帰った。

 そして、桐山から連絡があるのを待った。

 一時間ぐらい経ったが、なんの音沙汰もない。

 俺はだんだん不安になって来た。

 単にどこかに寄り道をしていて、俺からの連絡に気づいていないだけなら、そろそろ連絡があっても良い頃だ。

 俺は落ち着かない気持ちだったが、どうしようもないので部屋の中をウロウロとしていた。

 すると、スマホが突然鳴った。

 俺は急いでスマホを手に取った。桐山からのメッセージが入っている。

「連中に捕まった。助けてくれ。場所は海浜公園の近くの青い壁の一戸建て」

 とだけ書いてある。

 連中というのは三人組のことだろう。海浜公園近くの青い壁の一戸建てというのは、なんとも手掛かりとしては曖昧だ。

 だけど、おそらく連中に見つからないように急いで打ったから仕方がないのだろう。それに桐山本人にもはっきりと住所とかわかるはずもない。

 俺はすぐに家を出て、海浜公園へと向かった。自宅からは地下鉄を乗り継いでいけばそんなに遠くはない。

 しかし、普段あまり行くところではないので、土地勘はなかった。

 とりあえず、海浜公園の最寄り駅に降り立った。仕事帰りの人や学生がそれぞれの行くべき方へと散っていく。

 俺はまた桐山に連絡をしてみた。だが、やはり返信はなかった。つまりそういう状況ではないのだろう。スマホを取り上げられたということも考えられる。

 どうしようか。

 俺はしばらく考えた。

 いくらなんでも闇雲に探しては、時間ばかりかかってしまうだろう。

 青い壁の一戸建となると珍しいかもしれないけど、そもそも海浜公園の近くといってもかなりの範囲だ。

 あまり時間がかかってしまっては、桐山が無事でいられるかもわからない。

 俺は駅前にいた地元の人っぽい人に、青い壁の家を知らないか訊いてみた。

「青い壁の家? さあ、知りませんね」

 その人はそれだけ言うと行ってしまった。

 仕方がない。知らないものはどうしようもない。

 これは片っ端から訊くしかないなと覚悟を決めた。そして、俺は地元の人と思われる人に次々と訊いていった。

 こんなことは人見知りでコミュ障の俺にとってはかなり苦痛なことだったが、そんなことは言ってられない。

 すると、十人目ぐらいに訊いた人が、

「タクシーの運転手に訊いてみたら」

 と言ってくれた。

 確かにそうだ。

 こういうことに慣れていないとはいえ、もっと早く気付くべきだった。

 俺はその人に礼を言い、すぐに駅前ロータリーに止まっているタクシー運転手に訊いてみた。

「ああ、知ってるよ。お兄さんの言っている家かどうかはわからないけどね」

 と気の良さそうなタクシー運転手が答えた。

「そうなんですね! それで、その家ってひょっとして空き家とかですか?」

「よくわかったね。たぶん空き家だよ。誰も住んでないと思う。ただ、俺たちの間では結構有名で、あのあたりに住んでる人がよく目印でそこを言うんだよ。青い家の角を右とかね」

 なるほどと思った。

「すみません。じゃあ、そこまで乗せて行ってください!」

「ああ、いいよ。どうぞ」

 運転手はそう言って後ろのドアを開けてくれた。

 俺はそこに乗り込んだ。

「近いんですか?」

「ああ、五分もしたら着くよ」

「じゃあ、その家の少し手前で降ろしてください」

 さすがにその家の前にタクシーをつけるのはまずい。

 あとはそれが桐山の捕まっている家であることを願うだけだ。

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