第40話 責任②
俺と桐山はしばらく黙ってしまった。
ニュース記事によると、三好の死体が山中から発見されたということだ。近所の人が犬の散歩中に、やたらと犬が吠えるので、気になって見てみると、山道の少し外れたところで死体があったらしい。
警察によると、どこか別の場所で殺し死体を山中に捨てたのだろうということだ。犯人はこれから捜査するということだ。
「これ、絶対犯人はあの三人組だよな?」
桐山が言った。
「う、うん」
俺もそう思った。
「殺すか? あれぐらいのことで」
「あれぐらいのことと言っても、他にもなにかあったのかもしれないし、あの三人組が犯人かも、いまはまだわからないよ」
俺も桐山と同じように思ったが、それ以外の可能性もあって欲しいと思って言った。
「他にもってなにがある? 他に誰が三好を殺す?」
「それは、俺にもわからないけど……。でも、ああいった連中だから、他でもなにかトラブルがあっても不思議はないだろう」
「それはそうかもしれないけど、俺が思うには、ひったくった金がないことで、三好が金を取ったと思われたんじゃないかと思うんだ。要は裏切ったというか。それで揉めて殺されたんじゃないのか?」
桐山の言うことは、俺も真っ先に頭に浮かんだことだ。しかし、それだとあの時に俺たちがファミレスに遅れたことが、間接的に三好を死なすことになったと思えてしまうので、できれば他の事情があって欲しかった。
「クソー、なんてことだ」
俺が黙っていると、桐山は口惜しそうに言った。
「まあ、待てよ。いまはまだあの三人組が三好を殺したのかどうかはわからないんだ。俺たちはそれよりも考えないといけないのは、あの三人組を捕まえることだよ」
俺は話の流れを変えた。
「そうだ。確かにお前の言うとおりだ。あの三人組はたぶんすでに俺の個人情報は持ってるだろうし、三好が話していたら、あいつらのひったくり計画を潰した張本人ってことに俺たちは思われているだろうから、必ず報復に来るよ」
桐山は興奮気味に言った。
「うん。あいつらが俺たちにたどり着くのは時間の問題だろう」
「警察に行ったほうがいいんじゃないか?」
「でも、三好の死んだ原因が、あの三人組とまったく関係なかったらどうする? 藪蛇だぞ」
「それは……。そうか、確かにそうだな。お前だってあの連中の仲間をボコボコにしたんだし」
「そうだろう。自分たちでなんとかするしかないよ」
俺だっていますぐ警察に駆け込みたい気分だった。でもそれとやってしまっては、余計ややこしいことになってしまう。
「お前、大丈夫か? 俺のこともちゃんと守ってくれよ」
桐山は不安そうだ。
まぁ、それも仕方がない。
「大丈夫だよ。あいつらが来ても俺が負けることはない。ただ、お前が一人の時に襲われるのが心配だよな」
「そうだよ。お前はいいけど、俺は無理だよ」
桐山は青ざめて言った。
三好を殺したのが、その三人組かはいまのところわからないにしても、もしそうだとしたら、桐山のことだってあっさりと殺しかねない。
ここは少し気合を入れて行かないと。
「とにかく動きがあるとしたら、ここ数日間だろう。連中だってもし襲ってくる気なら、そんなに先にはしてられないだろうし」
「そうだな。俺の個人情報を知ってるとしたら、できるだけ早く俺のことを確保しにくるだろうし。それでお前のことを訊き出そうとするだろうな」
そこから会話が途切れた。
俺も桐山も思いもよらぬ大きな出来事になってしまって、気持ちがいっぱいになっていた。
「俺、疲れたから家に帰るよ」
俺はそう言った。
「うん、そうだな」
「なにかあったらすぐに連絡してくれ」
「ああ、するよ。すぐに助けに来てくれよ」
「わかった」
俺は家に帰った。
身体も心も疲れ切っていた。
家に帰ると風呂に入り、すぐにベッドに入った。
寝ようとするのだが、これまでのことがいろいろと頭に浮かんだ。
珍宝院が言っていたように、俺が行動したことで波紋が広がり、その波紋が想定していないことまでを起こす。だけど、俺はその波紋によって起こることのどこまで責任を負えばいいのか。
ひょっとしたら、そんなことを考えても意味はないと、珍宝院は言いたかったのかもしれない。
まずは三人組を捕まえて、それから反省しろって言っていた。
そう言えば、これまでの俺は、やる前からいろいろと考えて、どうせ無理だって諦めてたように思う。なにもせずにいることで失敗もしないという方を選択してきたのだ。
今回のことは、自分で決めて行動したからこそ出てきた問題だ。
そういう意味では、俺は珍宝院と出会うことで変わったのは確かだ。
しかし、変わったことで、これまでの自分では考えられないようなことを悩んでいる。
これって良いことなのか?
これまでの俺だったら、誰かが殺されたといっても、ニュースの中の話という感覚だった。
それがいまは自分が直接関わっているかもしれないのだ。
俺はそんなことを思いながら、ほとんど眠れることなく朝を迎えた。
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