第17話 仕返し②
翌日、俺は普通にアルバイトに行き、まっすぐ家に帰った。
寄り道などして、あの不良連中に会うのが怖かったのだ。
自分が強くなっているという自信はあるが、相手があまりに多くの人数でかかってきたら対応できるかどうかは疑問だった。
そして、その次の日、俺はアルバイトが終わってすぐに、金満寺に向かった。
バイト終わりに行くにはちょっと遠いが、こればかりは仕方がない。珍宝院の尿を飲まないと、強さが維持できないのだから。
特にいまは不良グループに狙われている。こんな時に通常の俺だと、とんでもない目に遭うことになってしまう。
金満寺に着いたらもう日が暮れていた。途中の山道はかろうじて大丈夫だったが、次からは懐中電灯を持ってきた方が良さそうだ。
俺が金満寺に入ると、珍宝院は待っていた。手にはすでに尿が入ったビンを持っている。
「おう、来たか。タカシ。さあ、準備しておいてやったぞ」
爺さんはビンを突き出した。
俺がそれを受け取ると、生温かい。どうやらまた出したてのようだ。
俺はそれをグビッと飲んだ。少し慣れてきたから、抵抗感もある程度なくなってきた。
それに、不良グループに狙われているということもあって、絶対に強くならないとまずいという状況もある。
「ほう、いい飲みっぷりじゃな」
珍宝院は感心した。
「あの、ちょっと相談したいことがあるんですが、いいですか?」
「なんじゃ?」
「実は、不良のグループに狙われていまして……」
俺はこれまでの流れを説明した。
「ワハハハ、そうかそうか。それは面白い」
珍宝院は俺の話に高笑いだ。
俺は少しムッとした。
こっちは真剣なのに……。
「まあ、そう怒るな。なにも心配はいらんよ。そんな連中、十人でも二十人でもかかってきてもらえばええよ」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫じゃ。数が多い分時間はかかるじゃろうが、やられる心配はない。順番にやっつけてしまえ」
珍宝院は自信たっぷりだ。
その様子に、俺は少し自信がついた。
「まあ、どちらかというと、その連中の方が心配じゃな。やり過ぎんようにな。手加減を忘れんように」
「手加減ですか?」
「ああ、そうじゃ。お前は自分の力をどれほどのものと思っているのか知らんが、並大抵のものではない。それにわしの尿を飲むほどにその傾向は強くなる。そうなると、普通の人間なんてイチコロじゃからの。ま、殺さないようにしなさいよ」
「あ、そう言えば、前にお爺さんが倒した三人組ですけど、えらい重症のようですよ。話ができないぐらいの。ひょっとしたらもう死んでるかも」
「おい、お爺さんはやめい。珍宝院と呼べ」
「あ、珍宝院さん」
「珍宝院様じゃ」
「すみません。珍宝院様」
なんだよ。
案外細かいことにうるさいんだな。
俺は腹の中で毒づいた。
「あの連中が死んだからって、お前は困ることがあるのか?」
「え? いえ、そういうわけじゃないんですけど、珍宝院様が警察に追われるんじゃないかって思って」
「ワハハハハ、なに言っとるんじゃ。わしをどうやって追いかけるんじゃ。あんなのどこの誰がやったかなんてわからんよ。それに、わしはいつも言うように、普通の人間じゃないからの」
「は、はあ」
その普通の人間じゃないってのが、いまいちわからないんだよなあ。
「まあ、とにかくだ。その不良連中に対しては、ある程度手加減はしてやれよ。お前はわしと違って普通の人間じゃからな」
「はあ。気をつけます」
「じゃあ、今日はこれまでじゃ」
そう言うと珍宝院は奥へと消えた。
俺は暗い山道をスマホのライトを頼りに駅まで戻り、家まで帰った。
それから十日、きちんと二日に一回の割合で金満寺に通った。
初めから大変だとは思っていたが、実際に通うと、思っていた以上だった。
アルバイトが終わってからがほとんどなので、暗い山道を歩いていくのがとにかく辛かった。
途中で何度も心が折れそうになったが、不良グループに狙われていると思うと、疲れていてもなんとか頑張ることができた。
「お前ほさすがわしが見込んだだけのことはある」
その日、俺がいつものように尿を飲み干すと、珍宝院がそう言った。
「と、言いますと?」
俺は口元をぬぐいながら訊いた。
「お前ほど続いたのはこれまでいない。よく頑張った」
珍宝院が褒めてくれた。
褒められるなんていつ以来だろうか。社会人になってから初めてのような気もする。
「ありがとうございます」
「その調子で頑張りなさい」
珍宝院はそれだけ言って、その日もそのまま奥へと消えた。
俺は「もう通わなくていい、わしがお前の所へ届けてやる」と言ってくれるのかと思ったが、そんなに甘くはないようだ。
俺はその日も山道を歩いて帰った。
しかし、その時ふと気づいた。脚が軽いのだ。よくよく思い返すと、徐々にそうなっている気がする。
やはり珍宝院特製の尿の効果が出ているのかもしれない。
俺は家に帰ると、桐山の家に行きそんな話をした。
「お前、それはただ単に二日に一回通っているから、鍛えられただけだろう。これまでの運動不足が解消しただけなんじゃないのか」
桐山が笑った。
「言われてみれば、確かにそうかも」
俺は頭を掻いた。
「ところで、不良連中からはまだなにもないのか?」
「ああ、まだなにもない。と言うか、そもそも仕返しをする相手がどこの誰だかわからないんだから、見つかる方が確率的に低いと思うけどな」
「まあ、そうだけど。でも、お前が倒した一人の意識が戻って話したら、すぐに見つかるだろう。いや、ひょっとしたらもうお前が相手だってバレてるかもしれないぞ」
「それは俺も思ってたんだよ。だから気を付けてるよ」
「ホント気をつけろよ。ああいった連中はネットワークが強いから、どこに知り合いがいるかわからないからな」
「確かにそうだな。実は俺もそれは心配してたんだけど、あまりになにもないんで、最近ちょっと気を抜いていたよ」
「なにもないに越したことはないけどな。このままなにもなかったらいいけど、あの手の奴らはしつこいから」
「そうだな」
そんな話をした翌日だった。
俺がバイト終わりに家に向かっていると、あのゲームセンターで会った不良の二人と出くわした。前から歩いてきたのだ。
不良の二人は、俺を見つけると、
「あっ、こいつだ。テメー、良くも光司をあんな目に遭わせてくれたな!」
俺はヤバいと思ったが、いまさら逃げられない。
「え、なんのことですか?」
俺はとぼけた。
「ふざけるな。お前、光司のことを病院送りにしただろうが」
「そ、そんなの知りませんよ」
「とぼけんじゃねえ! 光司がお前にやられたってしゃべったんだよ」
どうやらその光司という男が、俺の倒した奴の名前のようだ。
話からすると意識が戻ったのだろう。
「どう落とし前つけてくれるんだ」
男たちはすごんで俺の方へと身体を詰めてくる。
俺は、もっと大人数を相手にすると思っていたので、この二人だけなら逆にこの場で倒してしまった方がいいのではと思えた。
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