第56話 ホスト⑪
「協力したい気持ちはあります。でもなにをすれば?」
「それは、俺に藤堂さんの動向を教えて欲しいんだ」
「動向?」
「そう。つまり藤堂さんが誰と会ったとか、誰かと合う約束をしているとか、そういうのが知れれば、俺はあの子がそういう悪いことをするのを事前に食い止めることができると思うんだ」
「は、はぁ」
桜川は曖昧な感じだ。
「とにかく、彼女の予定とかそういうものをつかんで俺に教えてよ」
桐山は、あのおっさんはまた藤堂美紀に会うだろうと言っていた。俺もそう思う。それなら、藤堂の行動を把握しておく必要があった。
おっさんの行動がつかめたらいいのだが、どこの誰だかわからないのでどうしようもない。
「わかりました。でも、どれだけできるかわかりませんよ」
桜川は協力する気はあるものの、自信はないようだ。それも仕方がない。友達の予定とかをつかむと言っても簡単なことではない。
「無理はしなくてもいいけど、ちょっとしたことでもわかったら連絡してくれたら助かるよ」
あまり無理なお願いはできない。
できる範囲でやったもらうしかないだろう。
そういう意味では、あまり期待はできないかもしれない。
「とりあえず、美紀にまた会ってみます」
「うん、頼むよ」
そんな話を終えると、そこからは世間話をして店を出た。
俺は桐山のところに行った。
「なるほどね。そりゃまあ、ルキアってホストからしたら、なんとしてもお金を回収しないとダメなわけだから、フーゾクでもなんでもやって金作れって感じになるだろうな」
俺が桐山に、桜川から聞いた話をすると、そう言った。
「ルキアってのも被害者だよ。なんだかかわいそうに思えるよ」
俺はルキアのことを助ける気はないが、多少同情の気持ちはあった。
「まあな。でもヒリュウっていうホストはルキアに恨みがあるんだろ?」
「そうみたいだ」
「だとすると、その恨みの原因っていうのがわからないと、なんとも言えないよ」
桐山の言うことが正しいと思えた。
確かにその恨みの原因によっては、そんなことをされても仕方がないと言えるものがあるかもしれない。
「ま、いずれにしてもホストがどうなろうが、俺たちの関知することではないよな。俺たちとは別の世界に住む人間だよ。だいたい、酒飲んでちょっとなにか食べて何十万とかの金額になるなんて、まともな商売とは思えないし」
桐山の気持ちは理解できた。
「そうだな。それよりも藤堂に騙される男を救うことが大事だし、俺たちのすべきことだと思う」
「そうだよ。それで桜川は協力してくれるなら、助かるよな」
「そうなんだけど、あの感じだとあまり期待はできないかもな」
俺が言った。
「なんでだ?」
「なんか自信がなさそうだったし、それにまだ半信半疑なのかもって思うんだ」
「半信半疑って、つまり藤堂の本性がどっちかわからないってことか?」
「そうだ。たぶん桜川は迷っているんだと思う。俺の言うことを信じるのか、藤堂の話を信じるのか」
「なるほど。そりゃ、急にお前にそんな話をされてもピンと来ないだろうな」
「うん。だからあまり期待はせずに待つしかないよ。とりあえずまた藤堂に会うって言ってるから」
「そうか」
「それでなにかわかれば連絡が来るはずだ」
「じゃあ、どうするかはそれ次第だな」
俺と桐山は話を終えて、俺は家に帰った。
それから数日後、桜川から連絡があった。
話があるから会いたいということだ。
俺はまたバイト終わりに、同じ喫茶店で桜川と会うことになった。
「昨日美紀に会ったんです」
桜川は席に着くとすぐに話し出した。
「どうだった?」
「やっぱりタカシさんの言っていることが正しいのかもしれません」
「なにかあったの?」
「実は、美紀と会ってた時に、誰かから美紀のところに頻繁にラインが入っていたんです。よく思い返したら、前からそういう時があって、雰囲気からたぶん相手は男の人なんです」
「ヒリュウかな?」
ヒリュウ以外だと、アプリで見つけたカモの男ということも考えられる。
「わかりません。名前までは。でもタカシさんの話を聞いてから、そういう目で美紀のことを見ていると、確かに誰か親しくしている男性がいるようなんです」
「なるほど」
「それで美紀にそれとなく確認したら、そんな人いるわけないって言ってました。だけど、その否定の仕方がなんとなく怪しいんです。うまく説明できないですけど」
「要するに、なんとなく誰か男がいるって感じがするってことだね?」
「はい」
「たぶんその勘は当たってると思うよ。それで、誰かと会う約束とかしていなかった?」
「してたみたいです。おそらく明日の午後四時に」
「四時?」
「チラッとラインの文章が見えたので、たぶんそうだと思います。相手はわかりませんが」
「どこでだかわかる?」
「駅前みたいです」
駅前ということだと、確か、前にヒリュウと会っているのも駅前だから、相手はヒリュウの可能性が高いな。
時間からしても午後の四時なんて時間は、カモのおっさんは仕事中だろう。もっとも他にも誰かいたら話は変わってくるのだが……。
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