第2話 はじまり②
俺はもらった千円札を持って近所のコンビニへ向かった。
それにしても、いい夢だったな。
あの半グレどもをやっつけてなかなかの気持ち良さだ。夢の中だけど。
現実でもそんな風にできたらどんなに気持ちいいことか。
俺はつくづく思った。しかし、所詮夢は夢である。現実とは程遠いのだ。
考えてみると、これまでいつも空想の中では俺は最強だった。小学生の頃から、正義のヒーローに憧れがあったし、自分がそんな存在になったのを想像して、悪い奴らをどんどん倒していた。
現実はクラスメイトとろくに話もできない状態で、いわゆるパシリとして、学校カーストの上位の奴らに使われていたんだけどね。パンなんか何度買いに行かされたかわからない。間違って買ってきたときには、自腹で買いなおしに行かされたこともあった。酷い話だよ。
女子にもまったくモテたことがない。そもそも会話も数えるほどしかしたことがないのだ。
だから、当たり前だが童貞だ。
フーゾクすら行ったことがないから、真正の童貞だ。
まあ、自慢することでもないが。
そんなことを思っているとコンビニに着いた。
コンビニに入ると、まずは雑誌の棚へと行った。そして、漫画雑誌をパラパラ適当に読んでいく。
漫画はわりに読むのだが、単行本を買うタイプだ。雑誌はいつも立ち読みである。
店には悪い気もするが、コンビニは立ち読みをする人がいることで、店が流行っているように見えるから、立ち読みしてもいいって聞いたことがあるようなないような。
そんな自分に都合のいい理屈で、とにかく毎週新しい雑誌が出たら軽く立ち読みをする。
人間なんてどうせ自分に都合のいい理屈を考えて行動しているのだ。自分勝手に。誰だってそうだろう。
俺は雑誌を置くと、弁当の棚へと移動した。
その途中、ふと視界に女子高生が入った。
女子高生はお菓子の棚の前にいる。
俺は見るつもりはなかったが、なんとなく違和感を感じ、しばらく視線を動かせなかった。
すると、女子高生がガムを手に取って、自分のカバンに入れた。かなり素早い行動だった。
それから、続けてチョコレートを入れた。
どうやら万引きだ。
俺はどうしたら良いのかわからず、その場に固まってしまった。
そんな俺に女子高生が気づいて、
「おっさん、なに見てんだよ」
と小さい声で言った。
見た目はきれいな女子高生だ。不良っぽい感じはまるでない。髪はサラサラと長く、鼻筋が通っていてかなりの美形だ。細身で背は高めで、良いところのお嬢さんという雰囲気なのだ。それなのに、出た言葉がそれだったので、俺はますます身体が固まってしまった。
女子高生は、なにもなかったように、スーッと俺の横を通り過ぎて店から出て行った。
俺は、しばらくその場に立ち尽くした。
いったい、これは……。
俺は泣きたくなった。もちろん本当に泣くことはないけど。
しかし、ここでいつまでも立っていても仕方がない。
気分を切り替えて、弁当の棚に行きとんかつ弁当を手に取ってレジに行った。
さっきの女子高生の万引きのことを店員に言おうかと思ったが、やめた。別に俺が被害に遭ったわけではない。それに、言ったところで、もうその女子高生はいないのだ。
会計を済ませ店を出た。
俺には完全に負け犬根性が染みついていると思った。
がっくりと肩を落としながら、俺は自宅へ帰った。買ったとんかつ弁当を持って。
俺は自分の部屋に入ると、ムシャムシャとまるで自棄食いのように弁当を食べた。
あ、温めてもらうの忘れてた。
冷えたとんかつは味気なかった。
クソー。
俺は自分がとことん嫌になった。
こんなことをいつまでも続けて行くのか。情けない人生をこのまま歩んでいくのか。あと何十年もある人生をこんな状態で俺は生きていく自信がない。
涙が出そうになった。
まあ、実際にはまったく目は乾いているのだが、心では泣いていた。
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