第11話 ロボットミーツ私

『こちらです』


 “レイヴン”と名乗る人型ロボットに連れられてきた場所は廃退した街のど真ん中にポツンと佇んでいる一軒家だった。


 その近くに鉄船─────名前忘れた─────を置かせてもらい、詳しい事情を聞くことに。関係無いの一言で切り捨てるにはまだ早いから。


 家の中に入ってみると鉄製だった外見からは想像できない、昔資料で見たことのある“ログハウス”そのものだった。


『座ってください。飲み物は何にしますか?私のお勧めはコーヒーですよ』


「それじゃあコーヒーで」


『分かりました』


 木で出来ている椅子に座った私は、前でコーヒーを淹れているレイヴンの姿を眺めていた。こうしてみるとただの人間のように思えて仕方がない。

 だけど彼の体は紛れもないロボットそのもの。


 彼の言葉の端々からは、しっかりとした感情が伝わってくる。“私”と言う人間が来てくれて嬉しい、会話を初めて出来て嬉しい、そもそも、初めて人間を見れて嬉しい。

 そんな感情が。


 そんな今の彼の心情はどうなんだろう。


 はるか昔に滅ぼしたはずの人間が、別の星からやってきて、今こうしてコーヒーを手に向かい合っているこの状況を、どう思っているんだろう。


『どうぞ』


「ありがとう」


 私は一口、コーヒーを飲んでみる。口の中に広がる芳醇な香りと、舌を焼くようなコーヒーそのものの熱さ、そして鋭い苦み。

 どれも現実世界で飲んで感じるようなものそのものだった。


「美味しいです」


『そうですかそうですか!それは良かった!』


 こんな優しそうなロボットなのに、どうして、この星の人間を滅ぼしたんだろう。


『分かりますよ、あなたの考えていることは。どうして、私たちロボットが人間を滅ぼしたのか、ですよね?』


「そうですね。やっぱり分かっちゃいますか」


『本来だったらこんなので分かりたくないのですが……私は人間のヘルスチェックを専門としていたロボットだったんです。なので一目見るだけでその人の健康状態と、、更には思考まで分かってしまうんです』


「まあ、ロボットですからそれくらい当然なのでは?」


『あはは、ナラナラさんの住んでいた星はだいぶ文明が発達しているよう。でもね、この星ではそうじゃなかったんです』


 どういう事なんだろう。


『人の感情、思考、その人を構成する全てが分かってしまう私、レイヴンにはもう一つの名前があり、それは人間が禁忌とした名前なんです。私の開発があと一年でも遅かったら、こうはならなかった。そんな意味を込めて』


「……」


『私は早く生まれ過ぎてしまった。そのせいで、今のこの星の状況が生まれたのですから』


「……何があったんです?」


『詳しくは言えません。また、来る時、来るタイミングで話そうと思います。ナラナラさんはまだこの星に滞在するのでしょう?でしたらこの街の外に行ってみるといいですよ。あなたにとって未知の生命体などがうじゃうじゃいますからね』


 それ以降、彼はこの街の事について話すことは無かった。何かを押し殺すように、じっと、黙り続けるだけだった。



・¥・¥・¥・¥・



「街の外……に来てみたけど」


『……ワン』


「ローズ、言わないでよ。私だって少しだけ聞いたことを後悔してるんだからさ。でもレイヴンさんは一人で罪を背負おうとしている以上、私たちにできる事なんて無いんだよ」


『……クゥン』


「それよりも気分転換だよ!一先ずここにいるエネミー殺したら何がドロップするのか確かめないと!」


 無理矢理テンションを上げた私は、強引にローズを連れて街の外れにある樹海へと足を踏み入れた。


 早速目に入ってきたのはチュートリアルの森とは違ってほぼ完全に太陽の光を遮る程沢山の木と、そこかしこから聞こえてくるエネミーの声。それは紛れもなく機械的な声ではなかった。


 その時、ゲームの中とは思えないほど透き通った空気が私の鼻腔に入り、樹海が生み出した風が私の肌をそっと撫でる。


 今まで感じたことのない程、とても気持ち良い風。VRMMOの世界とは違い、魂そのものをゲームに入れているSTⅠだからこそ感じることのできる風。


 今世界にこれ程綺麗な風を出せる場所が果たしてあるんだろうか。技術発展で地球温暖化の対策も完了し、環境汚染なんて言葉が過去のものになった今、森林伐採が急激に加速し始めた。


 全世界の酸素や二酸化炭素の供給排出も管理できている今、もう森や林なんていらないだろと言う声が上がっており、文字通り“自然”が消えてきている。


「はぁ……」


 私は好きだったんだけどなぁ。子供の時に家族とキャンプに行った時に感じた自然の広大さは今でも忘れることは無い。

 あの光景は今でも忘れることなく残り続けている。もうそのキャンプ場は閉鎖されているからいけないけどね。


 そんな風に過去に思いを馳せていると、ドシドシ、と奥から大きな足音が近づいて来ていた。

 これは……エネミー!


「来たね。このゲーム初めての機械じゃない生き物!」


「ガアアアア!!!」


 現れたそれはまるでおとぎ話に出てくるようなバジリスクそのもの。

 カナが確か蛇が苦手だったからきっと見せたら発狂しそうだなぁ……。写真撮っとこ。


 パシャリ。


「ガアアアア!」


「危なっ!?」


『ワンワン!』


「ふぅ、何とか避けれたぁ……って、何?ローズ。え?少しは警戒しろって?いやいやいや、ほら」


 ローズにそう叱られたけど、正直言ってこいつがそんなに強そうには見えなかった。


 チュートリアルで得た過剰経験値だけど、どうやら私にだけでなくローズやあの星で手に入れた工具にも経験値が入っていた。

 と言うかその時に初めて工具にもレベルの概念があることに気が付いたのだが。


 私がこのゲームに入ってからずっと一緒にいるあのスパナ、今のレベルを確認すると既に限界にまで達していた。

 それで何が変わるかと言ったら作業効率ぐらいで、特にSTR値とかに補正は入ることは無かった。


 じゃあなんで今その話をしたかと言えば、なんとこのスパナ、進化してた。


【撲殺スパナS2/Lv.3:宇宙船開発、改造時に用いるアイテム。本来の用途を忘れて使われ続けたスパナの末路。】


 最後の文面に若干の悪意を感じるんだが、それはそれとして。

 このように進化したお陰で、このスパナは遂に所持者にSTR補正が入るようになった。


 だから、


「ガアアアア!?」


「弱っ」


 こんな感じで呆気なく大抵のエネミーは撲殺できちゃうんだよね。

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