第14話 方向音痴

「よぅし、今度こそ“スターリラ”に向かうぞう」


『……』


「何よその目は」


 鉄船で宇宙へと飛び出した私たちは、今度こそカナたちのいる星に向かって進んでいた。

 だけど正直な話、どの方向にあったか忘れてしまっていた。

 言い訳みたいな感じになってしまうだろうけど、だってあの時結構なスピードで通り過ぎてしまったから、気づくものも気づかないだろう。だからしょうがない、これは。


 今私の船はさっきまでいた星のそばを少し進んだところにある。私は学んだんだ。スピードを出すべきではないと。


 このゲームで登場する数々の宇宙船にはそれぞれ違う特徴があるが、それが出始めるのは鉄船からだ。


 ランク3の鉄船にはランク2の宇宙船以上の速度が出るが、それよりも目を張るのが船の頑丈さ。


 この船はなんと、ランク2の船が例え10隻ぶつかったとしても壊れない程丈夫……だと説明欄に書いてあった。

 本当かどうかは分かんない。


 他にもランク4のとある船だったら頑丈さを捨てて速度と操作性を重視したような作りになっていたりしている。


 いつか造ってみたいな。


 てかこうして探し物をするときはゆっくりなスピードで航進するべきなのね。でもどこにもカナから聞いた特徴の星らしきものどころか、周囲には細かな礫ばかりしか見つけられなかった。


「マップマップっと……逆じゃん」


 早速間違えてらぁ。




 そんなこんなでようやく目的地のスターリラが見えてきた頃、私の周りにはいくつもの木製船が。もしかして初心者のプレイヤーだろうか。

 なんて、気を取られていると、


「うおっ!?」


 ドシン、と横にいた船とぶつかってしまった。だが鉄船の耐久性はそこらの雑魚船には劣る訳もなく、早速一人プレイヤーを宇宙の藻屑としてしまった。


 申し訳ない。


 まああの感じだと向こうからぶつかってきたから、自業自得ってことで。


 それにしても、まさか船の耐久値が違うとぶつかった際に脆い方が壊れるんだなぁ。いや、普通だったら壊れないんだけどね?

 あの船が存外脆かったからかなぁ。チラッと見たけどなんか所々にひびが入ってたように見えたけど。


 あれが普通なのかな。


 なんて思いながら船を惑星内に入れる。そして大気圏を超え、見えた先には、


「おお……」


 さっきのレイヴンのいた星とは違い、都市が発展し多くの人がそこにはいた。その中にはプレイヤーと思わしき人も結構いて。


「やっぱチュートリアルの次がここだったんだ。どうりであそこにはプレイヤーが一人もいなかったわけだよ」


 私はすぐに近くの船着き場をマップで探し出し、そこに向かう。


 そして何とかスターリラに到着した私は船着き場で鉄船を止めた後、すぐにローズと一緒に宿に入ってログアウトしたのだった。



・¥・¥・¥・¥・



「ふぅ」


「あ、やっとログアウトしたな。白状してもらうぞ?」


「……あ」


 意識をゲームから現実世界に戻した私に待っていたのは半分怒っているカナだった。どうやら先にログアウトをして私をわざわざ待っていたらしい。


 まあ確かに彼女どころかプレイヤーの殆どが知らないクエストだったりを私はしていたからね。知りたい気持ちも分からなくはない。


 ここは大人しく彼女の質問に正直に答えようではないか。


「まずさ、あれはなんだ?レベル45ってどういう事?」


「あー……あれね。私も分かんない」


 早速答えられない質問が来てしまった。

 なので正直にそう言うと、


「チュートリアル終えた直後のプレイヤーのレベルじゃねぇぞ!?なんで分かんねぇんだよ!」


「そう言われても、初期スポーン地が普通とは違かったぐらいだったよ」


「そうだよそれ。私が聞きたかったのはそれだ。お前、どこにスポーンしたんだ?最初は空島でチュートリアルを受けるのが普通だったんだが?」


「あー……やっぱあそこだったんだ。私、その下の森に」


「森!?下に森なんてあったのかよ!?」


「うん。そこでエネミーを殺しまくってたらなんかこうなってた」


 そう、本当にそうとしか言えない。だってあの時は無我夢中だったから。それにあの時の記憶はそれほど鮮明に覚えているわけでもなかった。


 ってことも踏まえて説明すると、


「……明日また確認する」


「うん」


 カナはそう言って自分の部屋に戻って行った。どことなく呆れていたのはなんでだろうか。だってしょうがないじゃないか。本当に訳が分からなかったんだから。


 と言うか私だって早く宇宙で戦ったりしたいよ。パーティだけの船を作って皆に暴れて欲しいよ。話を聞いている限りだともう既に複数のクランが出来上がってるって話だし。


 クランと言うのはいくつかのパーティがある種の同盟を結んで協力し合う事を目的としたグループのようなもの。

 大人数で攻めることが出来るという事がクランを作る上で一番の利点だろう。まあその分報酬は少なくなるけど。


 でもまあ人数が増えれば細かく分けていかないといけないからしょうがないと思う。それ以上に価値を見出している人がいるのは事実なんだから。


「私は嫌だなあ」


 私は霊厶れいでござるの人たちだけで満足。他のプレイヤーとクエストをこなすとかは全く考えていない。

 まあそれはリーダーのQaQaさんが決める事なんだけど、彼は私たちの意見も尊重してくれる。その時なったら少し相談するのも悪くない。


「まあ今気にするようなことじゃないか」


 明日は仕事が終わり次第SSFにログインして他のメンバーに合うことになっている。その時にもきっとカナにしたような説明を強要されるんだろうなと思うと少しだけ憂鬱になった。

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