第13話 さらば同胞
「ローズ、これは驚いたね」
『クゥン……』
まさか樹海の奥深くにこんなところがあったなんて思いもしなかった。空を見れば車が走っており、街を見ればそこにいる人間たちが幸せそうに笑っている。
その平和が一体のロボットの犠牲で成り立っているなんて知らずに。
まさかこんなこと、一体誰が予想出来るんだろう。レイヴンのいたあの街の惨状はそれはもう凄く、否が応でも人間は滅んだんだなと納得させられるものだった。
しかし結果はどうだ。このように生き残っているではないか。
果たして彼らの中にレイヴンを知っている人はいるんだろうか。人間と彼らロボットが争ったのは今から遠い昔の事なんだと、レイヴンは言っていた。だとしたらもうこの中に覚えている人はいないだろう。
まあ、彼らにとっても、レイヴンにとってもそれは良いことなのかもしれない。もしかするとレイヴンはここについて既に知っていて、私に行かせたかったのかもしれない。
君の同胞はここにいるぞって。
「帰ろう、ローズ」
『ワン』
もうこんな街に興味なんてない。だってここには、レイヴンを否定して破壊しようとしたくせに、未だレイヴンに守られているなんて知らずにのうのうと生きている人間が沢山いるんだから。
・¥・¥・¥・¥・
『あら、おかえりなさい─────見てきたんですね』
「やっぱりレイヴンさんは知っていたんですね、あの街について」
『ええ』
私の様子からある程度の事は察したんだろう、彼はあの街の存在をあっさりと認めた。
あの樹海にいたエネミーの数はかなりのもので、おおよそあそこにいる人間もといNPCたちがあの街を守れるなんて到底思っていなかった。
私はレベルが高かったから問題なかったものの、もし私が機械震犬と対等に渡り合っていた時に遭遇していたら絶対にキルされていた。
それにこれは私の勝手な予想だけど、あの街にはレイヴン以上の高性能のロボットがいないとみている。だってこの街にある使われていた機械の残骸よりもだいぶ劣っている物を使っていたから。
だけど今日まであの街を存続することが出来ている、という事は街を守っている外部の存在がいるということ。
『つまりそれが私、レイヴンだった、という事です』
「なんで……」
『私は何処まで行っても人間に尽くすように作られた存在ですから。あなた方人間は創造神を信仰していますよね?』
「私はしてませんよ?」
『あなたはそうかもしれないけど、中には信仰している人もいるはずです。私にとってあなた方人間は神そのものと言ってもいいんですよ』
「なるほど」
だけど、神から裏切られたらたとえ人間だって信仰心を失って反抗するはず。
レイヴンはそれをしていない。
すると、まだ納得していない私を見かねたのか、レイヴンは溜息を吐きその重い口を開いた。
『そうですね……ここで私のもう一つの名前を教えるとしましょう。私レイヴンに与えられた、もう一つの名前はスロタリスト。カラスは濁り続けると虐殺者になるんですよ。知っていましたか?』
スロタリスト……虐殺を意味するスローターを成す者。虐殺者、ね。
元々人間の健康状態を検査するだけのロボットにそんな大層な名前を付けるかな?
『疑問は最もです。が、元々私は人以外の生物を絶滅させるためだけに作られたロボットで、健康状態を検査する、という機能は後付けだったんですよ』
「……」
私は彼に何と声をかければいいのか分からなくなってしまい、黙ってしまう。
でもまさかとは思っていたがそう言う展開になるとは……。
ああ、なんだろう。ゲームしているよね、私。もう見失いそうになってるんだけど。
「その事を知ったから、人とあなたたちが争う事に?」
『それも一つの原因だったって事だけです。争いが起こった根本的な問題は別にあります。単純に、モンスターをこれ以上殺すなと人々が騒ぎ出したのがきっかけです』
「え……?彼らが指示を出したんですよね。それをやめろと……?」
『はい。ですが当時の我々ロボットには命令の書き換え不可のコマンドが入力されていました。なので、その命令を遂行することだけしか我々にはなかったのです』
「それで、止めようとした人々とレイヴンさんたちで争いに……」
『ええ。人間たちがこの街からいなくなって、私たちの電源も落ちて、予備電源に切り替わって意識を取り戻したその時、私は全て悟りました。私たちロボットが守るべき人間を殺し尽くしてしまったと』
これはきっとレイヴンたちロボットの懺悔なんだろう。だから彼は一人残ってまだ生き残っている人間たちのためにエネミーを狩っている。
だけど奇跡的に生き残った人間たちはそんな彼らを恨んでいて、レイヴンに守られている事に気づくことなくあんな風に過ごしている。
正直言ってこれは人間側の逆恨みだと思った。最初から最後まで、人間側の失態によって今の状況が生まれたと思っている。
だからと言ってそれをレイヴンさんに話したとしてもきっと彼は何も動じはしないだろう。彼はもうそう言う風にプログラムされているロボット。
普通の人のように考えたり思ったりしても、根はロボット。人じゃない。
だから私は喉まで出てきていた言葉をグッと飲み込み、
「明日、ここを発つよ。もうこの星のエネミーは全て狩りつくしたからね」
『そうですか。でしたら最後の晩餐ですね。豪華に行きましょう』
それから朝になるまで、二人で夜通し話に花を咲かせたのだった。
・¥・¥・¥・¥・
次の朝、私はアイテムボックスから溢れてしまったアイテムを鉄船に詰め込むという作業を終え、後はここを離れるだけになった。
その時、家からレイヴンが何かを持って私の元にやってきた。
『ナラナラさん。よければこれを』
「これは?」
『きっとあなたの役に立つと思って。もう私は使いませんから』
【エレメンタルハンマーS2/Lv.2:特殊宇宙船製造時に使用可能。精霊の力が込められた不思議なハンマーで宇宙船に属性を与えることが出来る。更には武器としても優秀だが、精霊に好かれていないと武器に転用できない。】
「なんですかこれ」
『昔あの樹海で見つけた物です。私は使えませんからよければどうぞ』
「ありがとうございます、大事に使います」
思いもよらぬプレゼントに、私の頬は自然と緩んでしまった。というか、この世界に精霊なんてファンタジーあったんだね。
「それじゃ、またいつか」
『ええ。私はあの家にずっといます。何かあったら是非立ち寄ってください』
「それでは」
『ワン!』
『ローズさんも、お元気で』
そうして挨拶を終えた私たちを乗せた船はゆっくりと宙に浮き、物凄い勢いでこの星を離れていったのだった。
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