第46話

「おーいナラナラ?」


「……」


「……駄目だこりゃ」


 造り始めて既に3時間ほどが経っている。多分。その間私は一度も手を休めることなくずっと作業し続けていた。


 ……本当だったら今すぐログアウトするべきなのは分かってる。もうこれ以上カナに心配はかけたくない。

 でもこれだけは成し遂げたい。


 このゲームの造船は己との戦いだと思っている。多分これは私しか考えていないことだけどね。だって普通数人のプレイヤーが作業分担してやることを私一人でやってるんだし。


 でもこれはほかのメンバーにやらせたくない。自分の船を一番知っているのは自分でありたいから。


 船の重さから操縦感まで、私は全てを知り宇宙船に関する全てを把握していたい。これは自分が船に関して好き勝手やらせてもらってる責任だと思っている。


「ふぅ」


 今宇宙船全体の30%ほどが出来上がった。エンジン部分とかはエーテル機構を取り付けるだけにはいかなかったのが鉄船との違いだな、って適当に思いながらエーテル機構をバイクスネイクのなめし革で作ったチューブと連結させたりした。


ここから外装や内装など、残り70%の部分を造り始める。


 人を殴ってきたスパナがようやく本来の使い方をされている。このことに私は涙を禁じ得ない。うれしいなぁ。


 最近までスパナ=殴る道具みたいな感じになってたからなぁ。おかげで私のメインウエポンみたいになっちゃったし。


 それに意外にもエレメンタルハンマーも役に立っている。これのおかげで作業効率が上がっている。まあこのゲームでは本格的な造船は出来ないのである程度作業は省略されているけど、まあそれも致し方ない。普通船を造るのは一人では無理だし、仮に複数人でやっても一か月以上とか、かかるに決まってるし。


 というかまだ三時間で30%しか進んでいないことに驚きを覚えている。これはうれしい誤算。つまり予想でもあと7時間はこの作業を続けることが出来るという事。

 もしかしたらこれよりも長いかも……いやぁ、嬉しいなぁ。


 多分今の私の体にはセーバーがついてるはず。まあカナは律儀だからセーバーが切れて私の体が死ぬ、なんてことはないはず。現実の私はしっかりと眠っているはずだからゲーム内で一睡する必要はない。


 安心して作業を続けよう。


 と意気揚々とスパナを握り直した、その時だった。


『ワン』


「あ、ローズ。なんでここにいるのよ。危ないから離れて」


『ワン』


「あ」


 そして彼女が一回鳴いた次の瞬間、いきなり私の周囲に展開していた素材たちが勝手に動き始めた。


「え」


『ワン』


 そして私が苦戦して楽しんでいた箇所があっという間にできたばかりか、そこよりも先のところまで勝手に造り上げられていく。


 ……ああ、そこはしっかり悩んで造りたかったところだったのに。


「ちょっと」


『ワン』


 更にもう一回鳴けば、それが加速していく。私の目の前で私が何もせずに勝手に船が造られていくその光景に私は唖然としたまま、


「なにこれ」


 と呟くことしかできなかった。

そして私は強引にローズの口をふさいで、


『ワ─────ン゛』


思いっきり殴る。邪魔するな。



・¥・¥・¥・¥・



「よっし完成」


「出来たんですね」


「QaQaさん」


「私としてはさっさとログアウトして病院行け、と言いたいのですが……不服そうですね」


「そりゃあやりたい事が出来ているときに中断しろ、なんて言われたらどう思いますか?」


「ムカつきますね」


「ですよね」


 ローズを撃沈させてからかれこれ4時間半。ようやく私たちの船─────狂震の宇宙船が遂に完成した。

彼女が勝手に組み立てた部分は何と全体の30%に及んだせいで製造時間がかなり短縮されてしまった。本当に悲しい。


 これはローズに楽しみを奪われたも同然。これからしっかりと調教していく所存。


「さ、そしたらログアウトしましょう。いいですね?」


「え、でも」


「いいです、ね?」


「あ、はい」


 だが流石にこれ以上いすぎるのは良くないのは自分でもわかっている。だから渋々、本当に渋々だが私はメニューから久々に見るログアウトボタンを押すのだった。



・¥・¥・¥・¥・



「お?」


 最初に目が覚めた時、驚いたのが意外にも体が動けるということだった。これはもしかするとリハビリの必要がない……?


 だけど実際立とうとするとやはり筋肉が衰えているからか、ふらついて尻もちをついてしまった。


「おう、起きたな。宙椅子は用意した。すぐに会社行くぞ」


「え」


 宙椅子は宙に浮いている椅子のことで主に足が不自由な人の移動手段として主に医療で重宝されている。

 だけどそれを借りるのって結構いい値段したと思うんだけど……。


 まあ今住んでるところを鑑みたら確かに車いすは無理なのは分かるけどさ。なんでこう、用意がいいんだろう。


 こういう時こそ反抗の精神を見せるとき!


「行きたくない」


「行くぞ」


「このっ、離せ……─────力が出ない!」


「だろうな」


 衰えてヨワヨワな私は宙椅子に強引に乗せられ、昼食を食べながらカナに押してもらいながら嫌々会社へと向かったのだった。



 一章完



─────────────────────────────────────


 一章完結です!

 ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!


 初めての作品でかなり不安だったのですが読んでくれる人が多くて大変うれしいです!


 二章からは船造りメインになるので戦闘は少なめになるかなぁ……って思います!


 “面白い!”、“もっと読みたい!”と思ったら、この作品のフォロー、♡、☆をつけてもらえるとありがたいです!

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