第51話

「……本当に行くのか?攻略サイト見てもいいものないって。精々レベリングくらいしかできないって書いてあったぞ?」


「そんなのどうでもいい。私はそれよりもいろんな船を造りたいの。だからQaQaさんには事後報告ってことで」


「……今回限りな。俺たちもそろそろメインストーリー進めたいし」


「オッケー」


 渋い顔をする飯さんを説得した私はゆっくりとミマノソへと向かっていく。そして船が星の引力に引っ張られ始めたあたりでエンジンの出力を下げる。

 そして大気圏に突入したタイミングで一気に引力に抗うようにエンジンを動かして、船が摩擦で燃えないようにしながら大気圏を超えた。


 そうしてしばらくするとミマノソがどんな星なのかはっきりしてきた。


 


 まるで一つの部族しかいないとは思えない。島がいくつもあったらその分だけ部族が生まれると思ったのに。

 果たして本当に部族は一つだけなんだろうか。


 そしてどこに降りるか、だけど……。


「ねぇ里カナ。どこがいいとかある?」


「ミマノソに関する情報は少ないからなぁ。そもそも島の数も見た目よりも少ないし大きさも全然ないから攻略もくそもないんだ」


「そうなんだ。じゃあこの星唯一の部族がいない星はどこ?」


「えーっと……」


 そう言ってカナはブラウザを開いて検索し、私のマップに共有してくれた。


「ここ?それ以外の島は?」


「無い。占領されてる」


「分かった」


 舵輪を回しレバーをグッと押して少しだけスピードを上げる。マップによるとここから40kmほど離れているらしい。


「あ、見えてきた……すっご」


 そうして見えてきた島は、一見すると何もないように見える、草原や森林が広がる島だった。しかしそこにいるエネミーの大きさが普通じゃない。


 レイヴンの島にいたエネミーの2倍は大きいエネミーばかり。しかもここから見える一番大きなエネミーは目の前で口から明らかに毒だと分かる何かを吐いていた。

 だからここには人の手が伸びなかったのね。


 あんなゲ○吐くようなやつのそばに居たくないよね。


 今回降りたこの島には三つのダンジョンがあるらしく、更に私の予想通り、他の島よりも多くのエネミーが跋扈していることからここだけは人の手が伸びない自然のままの状態になっているのだとか。


 レバーを引いて少しスピードを落としつつ、高度も下げてなるべく船底が傷つかないように静かに地面に降ろした。


「ふぅ」


「お疲れ」


「うん」


 いったん船から降りて周囲を見てみれば、遠くから見た時よりもエネミー一体一体の迫力が更に凄く感じられた。

 あのクソダンジョンで強くなった私ならともかく、カナとか飯さんにとっては強敵とも呼べるやつらがうじゃうじゃいる。


 でもまあ、大丈夫でしょ。


「それじゃあまずダンジョン攻略からしよっか」


「ここのダンジョンは3層程度しかないらしいし、QaQaさんたちがログインしてくるまでしばらく時間あるし丁度いいな」


「でしょ?そんな小さいダンジョンだとは思わなかったけど」


「……知ってて言ったんじゃないのかよ」


 そんなこと知ってるわけないじゃん。行き当たりばったりな私が。


「む」


 と、他の三人がダンジョンの場所を確認している最中に近くを通った猿に似たエネミーが私たちに狙いを定めて、


「キキッ!」


 一般人男性ぐらいの大きさをした岩を投げつけてきた。それも風を切る音が聞こえてくるくらいの速度で。

 あれほどの大きな岩を重さを感じさせないほど軽々と投げていてうわぁ、とドン引きしつつ取り敢えずいつものようにスパナで打ち砕いた。


「痛っ!?」


「あ、ごめん」


 そしたら打ち砕いた破片がカナの頭に当たってしまった。まあそういう日もあるよね。


「キキッ!」


「あ」


 なんて思いながら私がカナに気を取られたその瞬間、猿エネミー─────のちにレヴォという名前だと判明した─────が私のそばまで近づいてきていて、


「キキァ!」


「─────っ」


 私の体は最初の位置から遠く離れたところまで飛ばされてしまった。油断していたとはいえ、まさかあそこまで速く動けるとは思わなかった。


 奴の身体は猿をモチーフにしているからか特に腕に比重を置いている。もしかすると猿じゃなくてゴリラをモチーフに作られたのかもしれない。

 どっちでもいいけど。


 だからこそ、あんな腕を携えたまま10kmを出せることに驚きを隠せなかった。


 ここで初めて、私はレヴォを敵と定めた。アイテムボックスから“エレメンタルハンマー:精霊の道標”を取り出し、グッと握る。


 ぽつぽつとハンマー部分が光りだし、冬眠させていた精霊たちを強引に起こす。


「─────……シッ!」


 飛ばされてから受け身を取って体を起こすまでの僅か数秒間に、カナはしっかりと状況を即座に把握しながらレヴォの振り下ろされた剛腕を受け止めていた。


 遠くからそれを視認し、みんなの位置を把握してから地面を陥没させるほど足に力を込めて、思いっきり地を蹴る。


「カナ!」


「おう!」


 一言。それだけである程度の意思疎通は出来るほどに私たちは互いを信頼している。

 現に私が奴の脇腹に向かってハンマーを振ろうとしたタイミングでカナは盾を上手く扱って奴のバランスを崩した。


「キッ!?」


「チェストォォォォォォォオオオオ!!!」


 ドカン!とまるで爆発したかのようにエレメンタルハンマーは脇腹を大きく抉った。そこから臓物が零れ落ちる。

 ここまでリアルに見えるのは私のゲーム設定でそのようにしているだけで、設定をいじれば制限することはできる。でもそれはゲームそのものの面白さを代償にするんだけどね。


 しっかしよく出来てるよねぇ。これを見るたびに毎回思う。


「キキッ!?」


「ふん!」


 最後に脳天をぶち抜けば、レヴォは静かにポリゴンとなって空気中に溶けていった。そうして残したアイテムが、


「皮……」


 最近になって私はようやくエネミーによって落とすアイテムの用途も変わることを知った。だから最初から期待はしてなかったけど、やっぱり辛いものは辛い。


 やっぱり機械系のエネミーを優先的に狙っていきたい。けどこの島にはいないみたい。


「はぁ」


「ダンジョンにはいるかもよ?」


「……期待してる」


 カナが気分が落ち込んでいる私の代わりにアイテムを拾ってくれた。それを確認したところで奥からみんながやってくる。


「凄かったな今の」


『まさかあんなエネミーがいるなんて思いませんでしたよ。他の星だとああいったのばかりなんですね』


「……いや、それはここだけだと思う」

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