第60話

「それで?なんで私を見ていたのかな?」


「……それはぁ」


「ん?」


「っ!?……わ、こんな島に行くプレイヤーなんていないので気になって調査しに来た次第です!」


「ふぅん」


 成程、ね。てかなんで敬語になってるの?まあいっか。

 私たちを、と言うよりもここに残った私を見に来たってことは私たちよりも前からこの星にいたってことだし、他の島についても詳しいってことだよね。


 だったら聞いてみよっかな。


「ねぇ」


「はい!」


「ここ以外に機械系のエネミーが出現する遺跡ってどこにあるの?」


「……ここより東にある島にあります。けど、正直言って機廻獣の眠る遺跡よりも難易度の高い遺跡はこの星にはありませんよ?」


「へー」


 ここから東……ふぅん。やっぱりここってこの星の中じゃあ一番難易度の高い遺跡だったんだ。QaQaさんの言ってた通りだったね。彼が間違うことはまずありえないけど。


「そっか。それじゃ」


「え?」


 聞くことも聞けたしもういっか。もう用はないや。

 私ははやる気持ちを抑えながら彼らに背を向けて、また遺跡に潜るために歩き始める。まだ五周しかしてないからね。早く潜りたい。


 なんて考えながらここを離れようとしたその時だった。


「待ってください!」


「……ん?」


 彼らが何か必死そうに私を引き留めた。一体どうしたんだろう。もう話すことなんてないのに。

 なんて思っていたら、


「ナラナラさん!これだけは答えてほしい!─────!?」


「─────」


 それを聞いて、私は歩めていた足を止めた。まさかここでその名を聞くとは思わなかったから。まさかあの時の生き残りが……いや、死んだプレイヤーが広めたのかな。てかなんで私のプレイヤー名を知っている。


 いや、そんなことはどうでもよくて。


「……なんで?」


「それは……気になったからです!」


「あ、そう。




 ─────。これでいい?」




「っ!?」


 私が少しの圧をかけながらそう言うと目に見えて二人はおびえた表情を見せた。すると彼らは開けかけていた口を閉じた。


 これ以上話すことはないようだし、どうせ遺跡のドロップアイテム寄越せとか変な言いがかりをしてくるつもりだったのかもね。

 それになんでエルミッシオについて話す必要があるのかわかんないし。これ以上はいらないよね。


 私はそのまま静かにこの場を離れる。今は彼らみたいなプレイヤーに構う暇なんてないんだ。とにかく船を、船を造る……!


 その気持ちが先行してどんどん足が遺跡へと向かっていく。既にさっきまで話していた二人組の男性プレイヤーのことなど頭の隅に置かれていた。


「船……!」


 私の思考はもう、宇宙船で占められていた。



 ・¥・¥・¥・¥・¥・



 ケンヤ視点


 ……こ、怖かったァァァァァァァァァァァァァァ!!!


 何なんだあいつ!?凄まじいプレッシャーを放ってきたぞ!?あんなの人が放つようなもんじゃない!明らかに人外かそれの部類のもんだろうが!?


 あの噂は本当だった……!間違いない!!そこら辺のイキってる奴らとはまるで違う、正真正銘本物の実力者!あれに立ち向かおうなら現状強いと言われてるプレイヤーが全員でかかってようやく倒せるレベル……!


 後ろに回ってきたときの速度は俺たちが目で追えないほどだった……。つまり少なくともレベル50である俺よりも明らかにレベルが高いと言う事。前にレベル60のプレイヤーの動きを見たが、それでもある程度目で追えたが彼女は無理だった……。


 恐らくだが現在最高レベルとされているレベル65よりも高いだろう。でないと説明がつかない。


 あのプレッシャーは機構の星リーダーを遠目で見た時にも少しだけ肌で感じたあの感覚と同じもの、いや、それ以上のものだった!


 腕を見れば、無いはずの鳥肌が立っているように見える。あれは近づいてはいけないプレイヤーだ。少しでも彼女の琴線に触れたその瞬間、必ずこの身を滅ぼすに違いない。俺にはわかる。あれに近づいたその瞬間体を粉々にされてしまうだろう。


 ……だけど。


 他のプレイヤーを隔絶するほどの圧倒的な強さ。それはレベルがただ高いから、と言う理由だけでは説明がつかないほどだ。


 単純なレベルからしっかりと確立された戦闘能力。あの一瞬で俺たちの後ろに回れた、と言うことは俺たちが目で追えないような速度でも十分に追えるを携えていることに他ならない。


 何よりこれが一番驚いたのだが、彼女が持っていたのはスパナだった。つまり彼女はあれほどの身のこなしをしておきながら戦闘職ではないと言う事。

 スパナを使う職業として考えられるのは……整備士や武具士、建築士。他にも確かあったらしいが生憎俺は戦闘職系にしか興味がなかったからな。


 しかし今挙げた三つだって戦闘系のステータスの上昇率や、職に合った武具を使用した際にステータスが上昇する割合を示す干渉率だってすべての武器に対して0%だったはずだ。この干渉率は対人戦闘になった時に大きくその勝敗を左右するとまで言われているからまず技術系の職業には関係のない話だろう。


 だと言うのに、彼女はそれらを無視したかのように強かった。スパナを手にしていたのなら干渉率のボーナスはついていたはず。だが、それでも上昇するステータスの中にDEXはあってもSTRやAGIはない。これが技術系職業と戦闘系職業の決定的な違いとなっている。

 だからこそ、技術系が戦闘系に勝てるわけがないのだ。たとえどれほどレベルが隔絶されていたとしても。


 恐ろしい。俺だったら彼女と敵対するよりも機構の星と敵対する方を選ぶだろう。明らかに彼女は普通のプレイングをしていない。何か特殊な方法で強くなったに違いない。


 でもそんなことはどうでもいい。大事なのは─────


「……リーダー」


「分かっている。俺たちは彼女─────ナラナラとは敵対せずに友好関係を築いていくぞ。間違いなく彼女の実力は都市伝説なんかで片付けられるものじゃない。あれは全プレイヤーを真っ向から否定するような存在だ。戦闘職よりも強い技術職なんてこのゲームのシステム上あり得ないからな」


「では」


「ああ。まずは彼女が所属しているというパーティの


 俺がそう言うと颯丸は分かりやすく目を見開きこっちを見てきた。


「……っ!それは前代未聞では……!?普通逆だとは思うのですが……」


「じゃあお前はナラナラ一人相手に、俺たち全員が立ち向かって果たして勝てると思うか?」


「無理ですね。間違いなく」


「そうだ。それにナラナラがあれほどの強さなら、はずだ。何故あれほどの強さを持っておきながら今まで噂すらなかったのか……隠れていたとしか考えられない」


「……これから、どうしますか」


「簡単だ。一旦、クランランキングの事を忘れるぞ」


「え!?」


「そしてクランメンバー全員のステータスの底上げと同時にナラナラのパーティに接触を図る。この二つを同時並行で進めていく。間違いなくクランランキングは下がるだろうが俺たちは彼女たちの傘下に加わるのだから最初から関係ない」


「……」


「これが嫌だったら別に抜けてもいいんだぞ?」


 俺がそう聞くと彼は少しの間逡巡した。馬鹿なことを言っているのは分かっているから、逆に即決されたら困っていた。


 これを決めたのは今で、指示されるとは到底思っていない。この案を持ち帰っても大多数のメンバーから反対されるだろう。

 でもだからと言って彼女たちと敵対するのだけはどうしても避けたい。それは俺がたとえクランリーダーを辞めさせられたとしてもだ。それだけは絶対に譲れない。


 すると、彼は決意を固めたのか俺の方を見て、


「─────分かりました。俺も、彼女とは敵対したくありませんから」


「……ありがとう」


 これで協力者を得ることが出来た。あとはこの重大性をどれだけメンバーに伝えることが出来るか。それは俺にかかっている。


 俺の後ろをついてきてくれているメンバーの説得すら出来なければ、何がリーダーか。


 俺はそんな確固たる決意を抱きながらホームへと戻っていったのだった。

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