第20話 カナ視点

 Side カナ


「……私は何を見ているんだ?」


 ナラナラが一番にあのカフェを抜け出し、次に飯さんが抜けた後、会計を済ませたQaQaさんと筑和さんと共に船着き場へと走った。


 私の中で嫌な予感がぬぐえなかったからだ。ああいった時のナラナラは正直言って手が付けられない。リードをつなげてもすぐにちぎってしまう狂犬のような。


 それは霊厶れいでござるのナラナラ以外のメンバーの中で共通の認識だった。


 だからせめて私たちは暴れ終わった彼女を止めるべく向かったのだが─────



 ─────見えたのは想像以上に育った狂戦士バーサーカーだった。



 なんだ……あの速度。ギリギリ目で追えるかどうか、わからないほどだぞ……?エルミッシオの奴らは私たちよりも10ほどレベルが高いがそれでもかろうじて追えているかどうかって感じだ。


 40人相手に圧倒している。それはレベル差があるからこそできる芸当だが、それでも相当レベルが離れていないと出来ないはず。


「おお、やってるなぁ」


「凄いですね、ナラナラさんなら、これくらいもう出来てしまうのも当たり前ですか」


「ナラナラってやっぱどっかぶっ飛んでるわよね。あんなに苛烈に戦うプレイヤーなんてそうそういないわよ」


 レベルが20離れているだけでこんなことが出来るのはナラナラのプレイングスキルによるものだろう。彼女の中にある本能とも呼べる鋭い勘がそれを可能としているのだが、当の本人はそんな自覚がない。


 だが……私にはまだ拭い切れていない疑問があった。


「はははははは!どうしたのかしら!?あなたたちはあのクソ犬共よりも弱いわよ!?」


「どうして、どうしてスパナがあんなに─────ぐべっ!?」


「奴の動きが見え─────がっ!?」


「はやす─────ぼっ!?」


 この時、私の拭い切れていなかった疑問─────彼女のスピードがあそこまで速い……いや、からくりが分かった。


 彼女の走るときの姿勢だ。


 彼女のトップスピードは然程速いわけじゃない。それはレベル40超えた彼女のステータスを見ても明らか。あの数値で見えないほど速く動けるわけがない。


 だけど彼女の動きが現に目で追うことがかなり厳しい。


 それは恐らく、彼女の動きがからだろう。ずっと前傾姿勢で走り続けているのだ。

 更にスパナを振るうときは毎回敵の死角から。彼女の目は良いからな、すぐに死角を見つける。


 そういえばこんな戦い方は前にもしていた気がするな。一度だけ攻撃部隊として飯さんとタッグを組んだ時に。

 その時も遠目で彼女の動きを見ていたが、似たような感じで動いていた気がする。


「な、なんなんだよあれは……!」


「おい金剛!話が違うじゃねえかよ!」


「し、知るか!俺だってこんなの知ってたら最初からしなかった!」


 狼狽する声が聞こえる。あれがエルミッシオのリーダーか。なんかさっきの話だと有名人らしいが、正直言ってあいつのこと一ミリも知らねぇな。


「くそっ」


「おい金剛─────ぐはっ!?」


 お、あいつ逃げやがった。あーあ、ナラナラに背を向けた。こうなった以上既に結果は分かり切ったも同然。

 背を向けた敵に、ナラナラは容赦がないからな。あれは恐ろしいもんだぜ。仲間の私でもそう思うんだ、敵のあの金髪はそれ以上の恐怖を今抱いてるだろうよ。


「皆さん、金剛が死んだらすぐに動きますよ」


「QaQaさん?」


「急いでこの星から離れるんです」


 するとQaQaさんがそう指示を私たちに出してきた。それも抜かすことなく飯さんにもチャットで。

 ナラナラ?教えてるわけねぇだろ。今のあいつは─────


「大人しく、死んだら?」


「ひいいいいいい─────ぁ」


 あんなんだからな。



 

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