第19話 楽しいお遊び
「ローズ。飯さんを守っといて」
『ワン!』
私は足元で指示を待っていたローズにそう言う。と、彼女は嬉しそうに尻尾を振り、飯さんの前に立つ。
「ナラナラさん。さっきから気になっていたんですが、こいつは?」
「この子はローズです。私のパートナーですよ」
「パートナー……」
「それよりも飯さん、来ますけど、大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃないです」
「そうですか。だったらここで待っててください。一人で全員ぶち殺します」
「え!?」
総勢約40人越え。─────うん、問題ないわね。
そう判断した私はアイテムボックスからスパナを取り出して構える。すると一斉に嘲笑の声が周囲に響き渡った。
「ははははは!あいつ馬鹿か!?」
「スパナ?そんなんで俺たちに勝つつもりかよ!」
「この戦力差に慄いて最初からあきらめちまったのか!?」
「さっさと尻尾巻いて逃げちまえよ!」
そんな挑発に対してただ、少しだけ馬鹿にするように笑った私は、
「見たところあなた方全員、私よりも圧倒的に弱いですから。これはハンデみたいなものです」
それを聞いた奴らは一斉に顔色を真っ赤に染め上げる。こんなのにすぐ乗るなんてどれほど挑発に弱いのかしら。
特に戦闘に立っていた金髪の男は憤怒で顔を歪ませると、
「……舐めるなよ。たかが一人でこの人数を相手取ることなんて出来る訳がねえ!お前ら!やれ!」
「「「「おおお!!!」」」」
そんな叫びのような号令と共に、雪崩のように一気にプレイヤーが一斉に私に向かって押し寄せてくる。あんなでも意外と統率は取れているものね。
それに向こうが圧倒的人数なのに対しこちらは私だけ。確かに数は脅威だし頼りたい気持ちも分かる。分かるけど、
「さあ、撲殺スパナくん、進化で得た力を出して頂戴!《撲殺の嵐》!」
「「「「がはっ!?」」」」
《撲殺の嵐》は一定の範囲に打撃ダメージを与えると言う、このスパナが新たに手に入れた能力の一つ。
そう言う訳だから、結局集団で攻めてきても進化したこのスパナだったら正直負ける気がしないのよね。
「何が起きた……!?」
「わ、分かりません……」
一度に何人ものプレイヤーがキルされたのがあまりにも衝撃的だったのか、奴らは一斉に動きを止めてしまった。
だがその中の一人がレーザー銃で私目掛けて撃ってきた。
「おおおおお!」
「威勢だけはいいわね」
しかしステータスが上がった今、撃ってきたレーザーも目で追えるようになった私はスパナでそれを打ち消す。
レベルが上がったことで手に入れたポイントをつい最近ようやくステータスに振った。特にDEXに。
もしかするとそのお陰かも、なんて考えながらもう2発レーザーを打ち消した。
DEXの数値は宇宙船の整備に必要不可欠である以上、これを重点的に強化するのは必然。だからなのか、私の目はかなり良くなった。
「もうこれでお終いかな?」
「う、うわあああああ!?」
「お、おい逃げるな!」
敵前逃亡、ね。そう簡単に逃がすとでも?
「ぐべっ!?」
今出せる最高速度ですぐに移動した私は、後ろから逃げている敵をスパナで叩きつけ、一気にHPを全損させた。
もうこの際、暴れてしまってもいいかもしれない。そうだ、やってしまおう!
「全員でかかってきなさいクソ野郎ども!」
「く、クソガアアアア!!!」
「うおおおおおお!!!」
まず最初に二人まとめてスパナで叩き殺し、飛んで空中に逃げ、着地と同時に足元にいた敵を一体踏み潰すと同時にスパナを振り下ろした。
まずは3人。テンション上がって来た……!
「はははははは!どうしたのかしら!?あなたたちはあのクソ犬共よりも弱いわよ!?」
「どうして、どうしてスパナがあんなに─────ぐべっ!?」
「奴の動きが見え─────がっ!?」
「はやす─────ぼっ!?」
最初の時と比べるとその数は既に半分近くまで減っている。が、それでもまだたくさんいるので機械震犬と戦った時みたいに縦横無尽に駆けまわり、見えた敵を次々と殴殺していく。
正直歯応えが無さすぎて困る。これだったらまだVRMMOのあのゲームのプレイヤーの方が歯応えがあった。
「な、なんなんだよあれは……!」
「おい金剛!話が違うじゃねえかよ!」
「し、知るか!俺だってこんなの知ってたら最初からしなかった!」
普通のゲームだったらデスするのにそれほど恐怖は抱くことは無い。しかしこのゲームは魂をアバターに移して遊ぶもの。
そのゲーム性故か、一度デスポーンすると今までのアイテムは全没収の上レベルが1からではなく―5からスタートするという鬼畜仕様となっている。
つまり一度死んだらレベル2になるためにはレベル7個分の経験値が必要になるという事。
どうやらそこら辺の采配はゲーム内での行動によって稀にアイテム没収すらされない時もあるとか無いとか。
だがこのゲームはまだサービス開始してからまもなくなのでしっかりとした効率のいいレベリングは開発されていない。なので、元の状態に戻すのには結構な時間がかかる。
だからこそ、そんな無駄な時間を作りたくないためにこうして必死に生き延びようとしている。
「くそっ」
「おい金剛─────ぐはっ!?」
そんな恐怖に駆られたのか、いきなり金剛は尻尾を巻いていきなり逃走し始めた。
まあ船着き場から街に入れば少なくとも襲われることは無いだろうね。でもさ、
「さっきも言ったけどそんな事、私が許すとでも?」
「ひいっ!?」
目の前の敵を殴殺した私は、走って逃げている奴に追いつき後ろ首を掴んで引っ張る。
そしてスパナを首元に添えて、
「大人しく、死んだら?」
「ひいいいいいい─────ぁ」
思いっきり殴りつけた。
・¥・¥・¥・¥・
「ふう、いい汗かいた」
いやあ、久々にこんなに動いたなあ。一時対人戦はどうなるやらと思っていたけど、案外問題なさそうだしよかったあ!
さってと、早速報酬を確認しよう─────
「……ナラナラさん!」
「ん?どうしたの、飯さ─────」
「みんなもう船に乗ったからすぐにここから離れるぞ!速く来い!」
「え?う、うん」
突然飯さんに急かされた私は、すぐに船に乗り込みスターリラを出た。一体なんでそんなに焦っているんだろうか。
─────この時の私は知らなかった。まさかエルミッシオとの戦闘が配信されていたことに。
そのせいで私の正体を探ろうとするプレイヤーがスターリラに集結しつつあったことに。
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