第21話 それぞれの反応

Side ???


「PVP?」


「はい。先日スターリラ船着き場にてPVPが起きました。正確には1対48の乱闘でしたが」


「1対48?一体なんでそんなことが……原因は何だ」


「鉄船です」


「鉄船?なんでそれが……待て。もしかして、それを所持しているプレイヤーが現れた、という事なのか?」


「はい。そのプレイヤーとエルミッシオの闘争です」


 それを聞いた私はその光景を想像して、明らかにエルミッシオの戦力が上がったことに少なからずショックを受ける。

 鉄船を手に入れたことでエルミッシオの行動範囲は広がった。今ランク2の船で行ける星は限られている。故にみんな同じくらいで足踏み出来ていたと言うのに、その均衡が崩れてしまった。


 まずい……このままだとエルミッシオが単独でクラン一位の座を保持し続けてしまう。あそこのリーダーの性格はあまり良くないと聞く。そんなのがずっと一位なんて取り続けていたら、SSFは間違いなく荒れるだろう。


「……今後エルミッシオに対する警戒を強めないとな。そうだ、今の内に叩いた方が─────」


「その必要はありません」


「……何故だ?」


 普通考えたら鉄船を手に入れたエルミッシオを警戒するべきだろうに。もしかして違うのか?

 もしかして、鉄船は別のクランが手に入れたとか……?


「エルミッシオが全滅したからですよ」


「はあ!?」


 それを聞いた私は久々に大声でそう叫んだ。だってあり得ないだろ!?クランが一人に負けるなんて。


「嘘だろ!?」


「本当です」


「……」


 どういうことだ?エルミッシオは言っては何だがこのSSFのサービス開始直後からずっと競ってきたライバルクランで、SSF内では3位の規模だったはずだ。

 それにリーダーの金剛の実力とカリスマ性はかなりのもので、奴のレベルはランカーレベルランキング2位の26だったはず。


 そんな彼が、彼らが、一人のプレイヤーに、負けた……?


「一体誰なんだ。それを成したのは」


「ナラナラ、と呼ばれるプレイヤーです」


「ナラナラ?」


 聞いたことのない名だ。恐らく隠れてひそひそと進めていたプレイヤーなのだろう。しかしそれでも疑問は残る。


「どうして既に鉄船を作れているのだ?それはおかしいだろう」


「そちらについては調査中です」


「もしかすると、全プレイヤーの知らないクエストやイベントがあるかもしれない。慎重に調査しろ」


「了解いたしました」


「それと同時並行で、の所在も明らかにしろ」


「はっ」


 はぁ。どうして鉄船を既に作ることが出来ているんだろう。あれはエーテル機構がないと作れない船だったはず。

 !?それをどうやってすぐに見つけ出したんだ!?


「……謎が多いな、ナラナラと言うプレイヤーは」


 奴らは既にこのスターリラにはいないと聞いている。である以上、鉄船以上でないと行けない星に逃げているだろう。

 それに、ナラナラのそばには数人のプレイヤーがいたと聞く。


 まずはそいつらから調べ上げた方がいいのかもしれないな。

 彼女とは是非とも協力関係を築き、できれば我がクラン─────“機制の星”に入ってもらいたいが……それは高望みだろう。


 彼女が何を望むのか。それが知れれば楽なんだがなぁ……。





Side ???


「はあ?もう一回言ってみろ」


「だからよぉ、エルミッシオが一人のプレイヤーに全滅させられたんだよ」


「なんでそんなことが起きてんだよ。俺が旅行行ってる間に」


「知るかよ。俺たちだってそんなの知りたいさ。もう既に機制の星はそのプレイヤーの情報を集めるために動き始めてる。俺たちも、そろそろ4位からの脱却のために動き出さないと遅れるぞ?」


「分かってるよそんなの」


 まさか家族旅行に行っている間にそんなことが起きているなんて全くの予想外だった。


 旅行から帰ってきた直後突然クランの副リーダーであるこいつから呼び出されたんだ。

“やばいこと”が起きちまったって。


 俺はそのヤバいことについて色々想像しながらログインした。そうしたら、


「エルミッシオが全滅した」


 なんて言われたもんだからよぉ、ビックリ仰天俺は椅子から転げ落ちちまった。

 だがお陰で目の上のたん瘤だったあいつらが退場してくれて本当に助かったもんだ。その名の知れないプレイヤーには感謝してもしきれねぇ。


 大手クランとして、サービス開始してクランシステムが導入されてからずっと先頭を走り続けていた機制の星、エルミッシオ、そしてもう一つ。


 そんなビッグ3の内の一つが潰れた。これはまたとないチャンスだ。


「一気に勢力を増やしていくぞ。勧誘条件を緩くして、個人に渡る報酬を増やせ」


「いいのか?」


「おう。機制の星がそのプレイヤーを狙っている内に、俺たちは戦力増強だ。来る日に備えろ」


「おう。下にも連絡しておくぜ」


「よろしくな」


 クラン結成時からずっといる友人でかつクランの副リーダーのあいつのお陰で今のクランがある。今度ボーナスでも支給するか。


「ああ」


 でもやっぱ気になるなぁ。エルミッシオを潰したっつうプレイヤーをよぉ。


「どこかで会えるのかねぇ」


 ま、気長に情報が出るのを待つとしますか。

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