ダンジョントラップ

第27話

 周囲には明らかに今まで出会ってきたエネミーよりも強い、化け物だらけ。ここは絶対に初心者に向けて作られたものじゃない。


 それを証明するかのように地面が大きく揺れて今いた場所から無いはずの天に届かんと高く火柱が立った。


 これはエネミーの攻撃じゃない。このフロアのギミックだ。


 しかもそんな場所にいるのは私一人だけ。ローズもいないし飯さんもいない。

 ─────また一人なの!?


「えーーーーーーー」


 めんどくさ。まじでめんどくさ。また一人でやんなきゃいけないのまじでめんどくさ。

 一先ずここがどこかってのを調べる事から始める必要があるけど……果たしてそれを許してくれるかどうか。


 多分だけどまだマップは使えないと思うから意味ない。ここが本当に第三階層、つまり出口の階層かどうか。それが問題。


 もし第三階層よりも下の階層に行ってしまったのなら結構、それはもう結構めんどくさい。だってそれって特殊な条件をクリアしないと出れないってことだから。


 ハンマーのクールタイムはまだ回復しきっていない。ってことはまたいつものようにスパナで何とかするしかない。

 ブリュナーグ……はちょっと使いたくないかなぁ。代償がどれ程重いものかによって私の命が変わってくる。


「……んで、ここも物量攻め、ってことでいいのかな」


 はぁ。やっぱりなのか、ここも物量で攻めてきた。目の前には大量の、第二階層の時とは比にならないくらいのエネミーがいた。

 それにご丁寧に今回はただの一本道なんかじゃなく、闘技場のようにエネミー共が綺麗に円形を作り、そこのど真ん中に私は立たされている。


「どれくらい、強いんだろ」


 スパナを構える。でも、いつもと違って今回は、


「……勝てる気が、何故か知らないけど全く湧かないなぁ」


 チュートリアルの時は必死過ぎてそんな事を気にする余裕はなかった。まあゲームだし、と割り切っていた部分もあったお陰かもしれない。

 樹海にいた時に関しては、一目エネミーを見た時、これは勝てると確信があった。それはレベルが一気に上がったからとか、そう言った理由があったからだと思う。


 でも今回はそんなのがない。


 今のレベルじゃあ太刀打ちできそうもないエネミーが、ここには沢山いる。


 ゲームなのに、死力を尽くさないと勝てない相手が、目の前に沢山いる。


「魂がこのアバターに宿っていて、更にデスペナも重い以上ここで死んだら駄目なんだけど」


 これはあのダンジョンのトラップだ。分かっている。それに死んでもが死ぬことは無い。少し胸が痛むだけ。

 でも、それでも。


「せっかくここまで育てたんだし、ここで全ロスは困る」


 最初からこのゲームで数奇の運命を辿ってきた。それは他のゲームでは味わえないような高揚感があった。

 彩をくれるような、刺激があった。


 それにまだ、私は当初の目的を果たしていない。


「すぅ……─────やってやんぞこんにゃロウがああああ!!!」


 吐き捨てた己に向けた鼓舞で無理矢理妙にリアルな恐怖感を消し飛ばし、私は駆け出す。


 このゲーム、過去のVRMMOと同じようなレベル別の動作感度となっている。簡単に言えば、レベル別で動けるスピードが違うという事。


 レベルが20ならおおよそ人間の範疇内で。レベルが30となると人間の動ける限界を少し超えたぐらい。レベルが40ともなれば、人間の持つ限界を超えて、地を駆けることが出来る。

 この速度はいつぞやのクランと対峙した時以上のもの。正直、整備士の癖にそこら辺の勘定が出来るようになってしまった。


 これが出来るのは戦士のプレイヤーだけなのに。


 まあいっか。私は今できる事を最大限するだけ。


 ─────何も失うことなくここを脱出する!


「はあああああ!」


「ガアアアアア!!!」


 撲殺スパナの能力、《撲殺の嵐》を目の前の巨獣にぶつける。だけどそれだと少し痛がるだけで大してダメージを受けているようには見えない。


 その隙に別のエネミーが私を殺さんとその牙を向けてきた。


「シッ」


 それを紙一重で避けると同時に思いっきり振り絞ったスパナでその巨体を叩く。


「ヴァアアアア!?」


「ええい、硬すぎじゃないの!?」


 そんな愚痴を吐きながら一度後退する。そしてアイテムボックスからペンチを取り出し、更にやって無かったステ振りを少しだけ済ませる。


 STRとDEX、この二つを少しだけ強化した。これで奴らの動きにはある程度対応できるはず。


「いっ!?」


 と思った直後、私はすぐに顔を傾ける。危なかった。もう少し遅れていたら私の顔は今頃酸でぐちゃぐちゃになっていた。


 危ない危ない。


 ここで目の前の60体ほどのエネミーを観察する。


 ゾウのようなギリギリ顔が見えるほど大きなエネミーが20体。

 蜂のようなエネミーが10体。こいつがさっき酸を放ってきた。

 虎のような凶暴な牙をむき出しにしているエネミーが5体。数は少ないけど絶対強い。

 蟻を巨大化させたような金色のエネミーが10体。キモい。

 色んな武装をしたロボット兵のエネミーが5体。怠そう。

 ヒュドラのような鉄でできたエネミーが10体。一番めんどくさそうなのが結構数いてやる気が削がれてくる。


 一体一体の大きさはかなりのもので圧迫感だけで押しつぶされると錯覚してしまいかねない程。世紀末かな?世紀末だね。

 末恐ろしい。だけど勝たないといけない。


「行く!」


 最初に殺すべきはゾウのエネミーだろう。あの巨体を動かされ続けてはこっちが動き辛い。

 取り敢えずさっき叩いた感じペンチであの鼻と足は切れそうだと分かったからまずはそれを実行する。


 奴らの攻撃を糸を縫うようにして避けながら目標のゾウの元へ辿り着いた私は、スパナで胴体を叩き、


「ォォォオオオ!?」


「斬る!」


 ペンチでその鼻を斬り飛ばした。更にそこから追撃をしようとする─────が、


「ヴァアアア!」


「がはっ!?」 


 横からの虎の攻撃で私の体は吹き飛んでしまう。HPを確認すると、


「……三割削られてる。あの一撃で……か」


 流石に削られ過ぎではないのかな。いや、そんなもんか。


「ええい、一体ずつ殺して、そこからまた考える!」


 私はスパナを仕舞い、ペンチだけ持つと再度同じようにゾウ目掛けて駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る